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立方体の思い出

 特徴のない星があった。どこを見渡しても同じような草木が広がり、特別な絶景など存在しない。

 同じ表情をした街が無数に広がっており、首都圏など存在しない。

 車内には、同じ顔をした二人 人が同じ服を着て同じ声で雑談をしている。当然、すれ違う車も全て同じ色、形である。

「しかし世の中は変わってしまった。昔はもっと刺激がある気がしたが」

「千年も前に遡りますね。あの頃は顔も喋り方もみんな違った」

「ファッションというものもありましたな。流行には敏感なほうでした」

「私は有名になりたい一心で派手なことをしたもんです。懐かしいですな」

「しかし個性は争いを生む。主張が激しくなり、世の中はめちゃくちゃ。あの頃に戻りたいとは思いません」

 医療の進化と、大きな犯罪や戦争がなくなったおかげで何千年と生きるのが当たり前になった。

 他と異なる必要はないという潜在意識は人々の姿形を変え、街を変え、自然を変えた。周りに合わせる文化の行き着く先が今の世界。

 この星は個性を消したのだ。



 現在この星は、周りの星と同じ球体であるが、昔はもっと個性的な形だったに違いない。今となっては誰も知ろうとしないことだが…。

          終

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