落とし穴【400文字】
落とし穴
男たちは神経を研ぎ澄まし、じっと待っている。誰かが罠に引っかかるのを。
落とし穴のそばで待機して、数時間が経とうとしていた。マヌケな奴が無様に穴に落っこちるのを想像するだけで男たちは笑顔が溢れていた。待つことも苦ではない。落ちる時の叫び声はどんなだろうか。この胸の高鳴りと緊張感を共有したく、顔を合わせて笑い合いたいところだが、あいにくそうもいかない。バレてしまっては台無しだし、それぞれが離れた位置にいるため物理的にも不可能だ。
ついに足音が聞こえてきた。皆が音に気を使い、緊張が走る。服が擦れる音すらも気をつけなければいけない。息を殺してその時を待つ。一瞬、時の流れが遅くなる。
「ズボっ、ドサッドド、ズドン」
派手な音が響き、一人の男の情けない声が聞こえてくる。やった、成功だ。男たちは盛大に笑い、茶化した。非常に良い気分だ。
唯一、落ちた奴の間抜けヅラを見れないことが悔しい。早くこの穴から抜け出して、覗き込みたいものだ。
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