『芸術の道』という視点から見るユーフォニアム3期12話 (後編)
※ネタバレあります。
さて、続けましょう。
“予定調和が覆された衝撃”についての考察を。
芸術大学からデザインの仕事に就いた私の周囲は、アタリマエなんですが芸術系の道を選んだ人が多め。
同じ大学には音楽学部があり、結婚相手が演劇関係なので音楽界や演劇界の交流も増えました。
長年、自分自身がそういう環境に生きて来たからかな。
“響け!ユーフォニアム”を見る時の私は、どうも“芸術の道”の入り口で悩める若者たちをソッと見護るような気持ち。
実を言うと、芸術界隈で生きている人って、必ずしもみんながみんな才能豊かなわけじゃないし、情熱ある人ばっかりでもでもない。
かと言って「好き」が強けりゃ続くか、というと……それも違う。
それに、溢れる才能があっても、すご~~~く好きでも、それでも芸術を選ばない人だっている。
じゃぁ、『芸術道』を歩むためにはナニがいちばん大事なのかっていうと……
結局、『原動力があること』。
―――これに尽きる。
あの田中あすかを思い出してみましょう。
父親ゆずりの豊かな才能がありながら、おそらく法律関係に進んでる。
しかも、泣く泣く諦めたというわけでもなさそう。
ちょっとメンタル的にツラい母親と親子関係が逆転するような関係を続けながら、自身の学力などから総合的に判断して、音楽の道には進まなかった。
ユーフォニアムを奏でることで繋げていた父親との関係にも、あの全国大会で一区切りつけた(そうでなければノートを手放さない)。
つまり田中あすかには音楽の才能はあったけれど、音楽を続ける原動力はなかった。
対して、やはり遺伝子レベルの天賦の才能に恵まれた上に、生来のストイックな(粘着気質とでも言うべき?)マグマのような情熱、そして豪邸が象徴する太い実家……という3拍子揃いの高坂麗奈には、言うまでもなく大発電所レベルの原動力があるのは明々白々。
考察の余地すらありませんね~。
なのでここは、まだまだ謎に包まれている黒江真由について想像を巡らせましょう。
黒江真由、どうも『親の転勤』がネックになっていそうじゃありませんか?
彼女には、天賦の才能があるように思います。
けれどもこれまではそれを育成し続ける状況が担保されて来なかったのでは?
人間関係も才能の育成も、親が転勤する度に否応なく断ち切られてしまって来たとしたら?
前校のオーディションでのトラウマがあったのも事実だけれど、そもそも「続けたくても断ち切られる」という状況が度々起きていたなら(違うかもしれんけど)、先回りして諦めがちなのではないだろうか? 心の自衛のために。
『私は波風立てずに楽しくやれればそれでいいの』と。
実は、かく言う私も、何度も引っ越しや転校を経験している。転勤の多い親の仕事の影響で。
だから、なんとなく想像できてしまうのだ。「関係を断ち切られる子供」が抱きがちな「期待しないことで自分を護る」「束の間の安寧を得るためなら諍いの原因になりそうな希望は諦めちゃう」という心理を。
さぁて、いよいよ、問題の黄前久美子です。
久美子にも音楽の才能はあります。
けれど、それは“努力すれば、ある程度までは行ける”というレベル。
多くの人がもう気づいていると思うけど、久美子の才能が最も豊かな分野は「人間関係」です。
「人間関係」>「音楽」なのです。
それは、Season 1 からずっと語られている。
ダメ金に爆発した高坂麗奈を避けるために選んだ北宇治。
吹奏楽部に入るも入らないも主体は自分ではなく友達。
姉に憧れて始めたユーフォニアムも、姉がやめてしまえば執着を喪って、別の楽器でもいいや……となる。
どうでしょう?
全部、「人間関係」>「音楽」です。
音楽については発揮されない粘着性の情熱が、人間関係を正すためなら、ワガママ(by田中あすか)さえも発動し、どんな障害も突破するぐらいのパワーで爆誕する。
ここまで考えた時、私の中で、
ストン、と、腑に落ちたんです。
ブラインドオーディションでは、この、彼女らの「才能」こそが、あの結果を招いたんだ、と。
これまで、色々な感想を拝読したところ、真由と久美子に部員たちの同数の票が入った理由を『忖度』と受け止める向きもあるようですね。
私は、ちょっと違った受け止め方をしました。
こんな風に……
黒江真由の演奏は「音楽」>「人間関係」だった。
“一年の詩”の完成度を上げるための、トランペットとユーフォニアムのソロに求められる役割を果たし、音楽的に大正当、大正解の表現をやってのけた。
黒江真由に手を挙げた部員たちは……耳が良かったというよりも、それまでの経験上の「完成度」の観点から、彼らなりの正しい選択をしたに過ぎなかったのではないかと思います。
だって、関西大会突破を経験しているんですから!
そう。彼らにとってはすでに『お手本』があったわけです。
SNSで絶賛された、関西大会の音。
それに近かったから、それを選択した……ということだと思います。
黄前久美子の演奏は「人間関係」>「音楽」だった。
高坂麗奈との絆のための演奏。
高坂麗奈や滝先生の期待、そして自分自身が誓ったことの期待に応えるために。
心をこめ、想いを込めた演奏は、魂を震わせる演奏だった。
黄前久美子に手を挙げた部員たちは、文字通り魂を揺さぶられたのではないでしょうか。
彼らだって『お手本』『物差し』としての関西大会の音は解っている。
だけど……いえ、音楽に関する感性が高かったからこそ、関西大会のお手本と違う魂の演奏にポテンシャルを感じたのではないか。
つまり「魂を揺さぶられるこの演奏なら、関西大会よりも一段階上のレベルに昇華できるかもしれない、優勝を狙える演奏になるのでは」という挙手だった……と、私は思います。
と、いうことは……
むしろ、投票の際、「忖度」をしたのは奏ひとりだったのかもしれない。
そして麗奈は、音楽的な完成度を求めたがゆえの、真っ当な、王道の選択をしただけなのかもしれない。
―――以上が、私の考察です。
そして……最終回。
外れちゃうかもしれないけれど大胆に予想。
(想像するだけなら罪はないでしょ?)
なんらかのトラブルで、真由が(辞退ではなく)演奏できない展開になるのではないですかね?
そんでもって、急遽、久美子&奏のユーフォ、久美子ソリ?なんて??
ないかー。
でも、全国大会ですからね……
王道の演奏も大事だけれど、魂をゆさぶる演奏で優勝っていう展開になることを希望する私がいます……
長々とお読みいただき、ありがとうございました!
※あ、タイトルイラストは「かめはめ波」じゃないですよ~。
前編と対になる二次創作イラストです。
てか、ユーフォニアムのSNSイラストは引用が圧倒的に多いけどなんでなんですかね?
みなさんファンアート描かない派なの?
ひょっとして描いてはいけない? 私、地雷ふんじゃったかな……
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