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【Review】Golden Ratio/Kowree × chop the onion "らしさと意外性 黄金比"

 時は未曾有の緊急事態、コロナ禍と同時期に製作が始まった、島根を背負うMC・Kowreeのアルバムが奇しくもその終焉と共にリリースされた。タイトルは「Golden Ratio」。即ち黄金比、人間が最も美しいと感じる比率のこと。そのシンボルはジャケットの中心に配置され、中にはこの作品を構成する物々や記憶、盟友の姿が刻まれている。その全ては黄金比なるバランスで作られたという強い自信を伺わせるビジュアルだ。

『Golden Ratio』アルバムジャケット

 前作「Gene And Thought」はMitsu the Beats、MASS-HOLE、Michitaなど日本最高峰のプロデューサー群による絢爛で高低差あるアプローチの音作りが印象的だったが、今回Kowreeがただ一人の相方として選んだのは、大阪を拠点に2002年より活動するトラックメーカー・chop the onion。一貫してHIP HOPに軸を置きつつも、表情豊かな音楽性でジャンルの垣根を超える魅力を放つ誰もが認める実力派だ。過去にもSTREET盤「WELCOME 2 DA B-SIDE」で共演した彼らの相性は既に折り紙付き。また、ミックス&マスタリングにジョイントアルバム「2PENETRATE」でもタッグを組んだ呼煙魔が参加し、客演にはKowreeのフッド島根が属する山陰地方の面子が揃っている。そんな地に足を付けたアーティスト達が放つ"らしさと意外性 黄金比"、それが本作である。

 幕開けを飾るのは、軽快で清涼感あるループが始まりを思わせる#1「Choice Is Yours」。chop the onionのローファイなイメージを大胆に裏切るシャキッと堅いHIP HOPサウンドで、確かにこれは面白い意外性。パンデミック以降の異常事態を語る報道音声がトラックの背後に重なり、Kowreeのラップがスムースに合流する。気持ちの良い押韻の中に細密に意味を込め、勝ち抜くためのシンプルな選択=”やるかやらないか”を提示する。コアなテーマ性とリフレインが耳に残るキャッチーなHOOKで、頭から一気に引き込む起爆剤たる楽曲だ。「あの言葉信じてよかったぜ やる事やってる奴が正義だぜ」、大勢の背中を押したであろうILL-BOSSTINOの名フレーズ引用に思わず拳が上がる。

 流れるように続く#2「CHANGES」で歌うのはタイトル通り変化。メランコリックな質感の音とは裏腹に、そのメッセージは非常にポジティブで胸熱。中でも年を重ねても挑戦する者の姿が語られるverse2は、年齢や立場で諦めるようになってきた身に沁みる名ラインが並ぶ。盤名を指し示す「黄金比」という言葉がここで登場し、アルバム全体を象徴する楽曲として作用する。挑戦者そしての姿勢は #4「チャンプロード」でも表れる。相方としてキックするのは鳥取のMC・JAKE。妖しくダーティなトラックは太く力強い2MCのラップを乗せるのに最適解。主張と熱量がカチッと嵌まるverse3の応酬は共に高みを目指す相手としての信頼感を伺わせる。掛け合いという点では山陰の若手をフックアップした#6「DA CYPHER」も痛快。島根のCOCOROと鳥取のCOSMO DA U.GがKowreeを挟むフォーメーションで三者三様テイストの異なるフローがアグレッシブに行き交い、表題通りサイファー的な楽しさを味わえる一曲だ。

 後半に向かうにつれ、作品は成熟していくかのようにじっくり聞かせるトーンへと変遷していく。その中でも異彩を放つのは鳥取のMC・OGKを招いた#9「JUST LOVIN' IT」。地元に根差し長年HIP HOPを愛し続けたback in the dayから連なる今を、Kowreeはタイトかつ実直に、OGKはユーモラスで比喩的に表現。お互いのアプローチの違いが予想外の化学反応を生むケレン味の強いラブソングだ。ロートーンで歌い上げるフックは中毒性抜群で、一度聴けばしばらく脳内に残り続けること間違いなし。そしてアルバムの掉尾を飾るのが、同郷島根のDJ陀魔が参加する#10「REPRESENT」。「一周回って敢えてPICKする定番のテーマ」という一節から始まる通りHIP HOPマナーに則った硬派な一曲だ。それはいなたいブーンバップにDJ陀魔のスクラッチが重なるサウンド面においても同様。地元に留まり、看板を背負い、そこで発信し続ける者の確固たる覚悟と態度、それが音と言葉で紡がれる。思えばこの楽曲のみならず、アルバム全体を通して驚くほど真面目にHIP HOPと自身に向き合っている印象を受け取った。決して背伸びする訳でも、過度に格好を付ける訳でもない。培った知識と技巧、そして経験を最大限活かしてベテランらしく冷静に、だが内なる情熱は最大限に。積み重ねた者だけが持ちうる説得力がそこにはあった。「RAPPER溢れる言葉数より 裏付けるMOVEで物語る」。いやはや、なんと頼もしい背中であろうか。

5/24(水)より、販売・配信中。

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ISO
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