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【ビジネスと経営】入門ガバナンスとは何か(その7)「ガバナンスの最終兵器」

はじめに

 エンロン事件を取り上げながらコーポレート・ガバナンスの理解を深めています。
 エンロン社のコーポレート・ガバナンスが経営者の不正を止められない中で、最後に内部告発が同社にとどめを刺した事例をご紹介します。

パーソンズ・オブ・ザ・イヤー

 米タイム誌の2002年12月30日と2003年1月6日の合併号はパーソンズ・オブ・ザ・イヤーを特集し、表紙の“The Whistle blowers”という見出しと共に3人の女性を紹介しました。彼女らはいずれも【内部告発】という勇気ある行為を行い社会に貢献したヒーローとして2002年度の時の人に選ばれたのです。
 日本人の感性ではややもすると内部告発者に対し「ちくり」「たれこみ」「裏切り者」といったマイナスのイメージをいだきがちですが、欧米では異なることに注目しておく必要があるでしょう。

内部告発の概要

 表紙の正面左側は「シンシア・クーパー」さんで、大手通信会社のワールドコム(すでに破綻)が行った不正会計を内部告発しました。
 中央は「コリーン・ローリー」さんで、米国の同時多発テロ事件の事前情報が十分に捜査されていなかったことを内部告発しました。
 右側が「シエロン・ワトキンス」さんで、総合エネルギー企業エンロン社(すでに破綻)の不正な経理を内部告発しました。

シエロン・ワトキンス嬢

 今回はエンロン社による不正行為を告発したシエロン・ワトキンスについて紹介します。
 エンロン事件については複数回に分けて紹介しましたが、その要点とは2001年にフォーチュン500社で全米第7位にランクされた総合エネルギー企業エンロン社は不祥事が明るみに出て、同年12月に日本の会社更生法にあたる連邦破産法の適用を裁判所に申請して倒産した事件です。

 エンロン社は株価を上げるために利益のかさ上げとペーパーカンパニーを用いた負債の飛ばしによる粉飾決算を行っていました。同社のCEOと一部の経営者達は破綻する前にストックオプションを売り抜けることで多額の報酬を手に入れていましたが、一方でエンロン社を優良企業だと信じていた株主や投資家はエンロン社の破綻により大きな損害を被りました。

 シェロン・ワトキンス(当時エンロン社副社長)は破綻直前の2001年8月にエンロン社のCEOケン・レイ宛に会計手法の是正と決算の修正を促した告発メモを送ったことが内部告発の発端になり、エンロン社は粉飾決算の修正を余儀なくされました。

 ニューヨークタイムス誌に掲載されたワトキンスによる告発文の要点は「エンロン社が旧悪をすっかり告白して決算を修正しないと訴訟が相次ぐことになり、もはや会社の建て直しは不可能になるであろう」と具体的な不正の事実を挙げてエンロン杜の取るべき道を示しました。 

 この事件ではエンロン社の決算を監査してきた会計監査法人のアーサー・アンダーセン社もエンロン社の書類を不正に破棄して監査を妨害した理由によりアメリカ司法省から起訴されました。監査法人として社会的な信用を失ったことが致命傷となりアンダーセン社も廃業に至っています 。

ガバナンスと内部告発

 コーポレート・ガバナンスは社内に設けた【経営陣の不正を牽制する】ための仕組みです。内部告発(公益通報)はコーポレート・ガバナンスの仕組みの中ではとくに効果的で最終的なシステムです。この仕組みを活かせるかどうかは当該企業の良心だけに依存するのではなく、取締役から牽制されない独自の方法論が必要になります。内部告発はガバナンスの最終兵器として効果を発揮できるようにするため経営陣から独立させて不正を行う者から握り潰されないようにしなければなりません。
 日本の公益通報者保護法については別の機会にシリーズ化して述べたいと考えています。

おまけ

 余談になりますが“blow a whistle”だと「笛を吹く」という意昧になります。しかし“a”を“the”に入れ替え“blow the whistle”にするとコーポレート・ガバナンスの最終兵器である「内部告発を行う」になることは覚えておいて損はないと思います。

最後に

 複数回にわたりコーポレート・ガバナンスの入門学習としてエンロン事件を俎上に挙げました。入門の役割は果たせたと考え、今回でガバナンスに関する書き込みは一旦終了致します。また別の機会に続きを書きますので宜しくお願い致します。

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