![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170462493/rectangle_large_type_2_b64214dd7dd010eb597126e65d2b5703.jpeg?width=1200)
インターネットがあってよかった
小学生の頃読んでいたマンガを買った。偕成社から出ている『ひみつの階段』というマンガだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1737105968-I0NwHmeV5LdyxTX2MJQUghaz.jpg?width=1200)
寄宿舎のある学園で過ごす、少女たちの学生生活が繊細に描かれている(別の短編も何本か掲載されている)。
このマンガを読んだきっかけは、小学校の図書室に置いてあったことだ。自分は寝ても覚めてもマンガが読みたい子どもだったので「図書室に置いてある本であれば、学校でも合法的にマンガが読める」と思い、図書室に行く度にこの『ひみつの階段』を読んでいた。
熱心に繰り返し読んでいた体験が功を奏し、印象的なセリフは諳んじることができるようになった。当時はよく絵を描いていたので、手元に原本がなくてもコマ割りからキャラクター、セリフまで真似して自分で自由帳に描くこともあった。
そんな私の幼少期の後半を彩った『ひみつの階段』だが、小学校を卒業してからは一切読めなくなった。「自分で買えばいいじゃないか」と思われるかもしれないが、この本は書店のどこにも置いていなかった。連載ものっぽいが、どの雑誌に掲載されていたのかも当時は分からなかった(少なくとも『なかよし』とかじゃないのは分かった)。いつしか『ひみつの階段』のことは忘れ、時折頭に作中のセリフが思い浮かぶだけだった。
物語のなかではいつだって
こんな時にたすけてくれる誰かが
かならず いるのに
記憶の底からふと思い出すだけだった『ひみつの階段』を、先日ついに購入した。もちろんAmazonで。
あらゆる万物が揃う密林の奥地に、『ひみつの階段』1巻は古本として88円で売られていた。安くてたまげた。ちなみに2巻は中古で1300円だった。なんでだ。ちなみに届いた現物を見ると、綺麗さは1巻と2巻どちらも大して変わらなかった。なんでだ。
調べてみると『ひみつの階段』初版が1997年というほぼ私が生まれた年に発売されたこと、『ノンタン』シリーズで有名な偕成社が出版していたこと、マンガ雑誌『コミックFantasy』で連載されていた作品であることなどが分かった(そういった事情を知ると作品中の小ネタがより面白くなったりする)。
久々に読んだ『ひみつの階段』も変わらず面白い。ただ、小学生の頃と違うのは「絵が圧倒的に上手い」とか「話ごとの時系列はこうなっている」など、異なる視点で作品を読んでいる自分がいることだ。小学生だった私は商業マンガに絵の上手い下手があるなんて思っていなかったし(みんな上手いから)、話ごとの時間の流れはあまり考えていなかった気がする。
小学生でも少し難解な雰囲気の話が読めていたのは、作者・紺野キタさんの絵の上手さがあってこそだ。基本的に一話完結の作品だが、ストーリーごとの時系列が整理できると「このキャラの若いときの話がこれなんだ」「ということはAの話のこのセリフは、Bのあのセリフに繋がっているのか」といった読み方ができる。十何年の時を経て再会した『ひみつの階段』はより面白く感じられ、かくして大人になった私の本棚へ堂々と並ぶこととなった。
昔はあくまでも「図書室に置いてある本」だったので、自分のものとして深く読み込めていなかったのだと思う。またこの十何年の間にいろいろな知識が付いたことで、以下のような小ネタが楽しめるようになっている。
・主人公たちが暮らしている寄宿舎の部屋が「B-26」である
・作中で登場する歌の意味が分かる
・世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし(在原業平)
・久かたのひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ(紀友則)
・桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける(紀貫之)
・今年より春知りそむる桜花散るといふことはならはざらなむ(紀貫之)
・上記の歌の意味を知っていたり、調べたりすることで「なぜそのシーンで詠まれたのか」が分かる
・「セリフの妙」が理解できて笑える
「今にロレンツォ・デ・メディチが颯爽と現れて 我の美の擁護者となってくれるであろう」
「貫之と友則って兄弟かなんか?」
……と、枚挙にいとまがない。
特に、先生のキャラクターのセリフにグッと来たのは発見だった。昔読んでいたときはあまり印象に残っていなかったのに。
「人と違う行動や 秘境を巡る旅ばかりが 冒険じゃないと思うんだ」
「私の生活だってさ 他人がそう思わなくったって 私にとっちゃあ冒険の毎日なのだよ」
おそらくAmazon、およびインターネットがなかったらこの『ひみつの階段』を買うことはできなかっただろう。小学校を卒業してから十数年経ち、どこの誰が描いたマンガか覚えておらず、頼りになる記憶は絵柄のみ。実店舗にはなかなか置いていない。『ひみつの階段』という、1歩間違えば古本屋のホラー作品でも掴んでしまいそうな曖昧なタイトル。
ネットを駆使して「あれじゃない、これじゃない」と画像で判断できることで、何とかたどり着けたAmazonページなのである。
「インターネットがあってよかった」。
初めてTwitterで知らない人から優しいリプを貰って10年、久しぶりに心からそう思ったのであった。
いいなと思ったら応援しよう!
![秋海まり子](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144808405/profile_53ad80d45cf50c45e0e32621dc915275.png?width=600&crop=1:1,smart)