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「4年3組 トイレの花子さん?」

ある日の中休み。
4年3組の森下萌のまわりには数人の女の子が集まっていました。
「A子ちゃんが学校帰りに一人で歩いていると、マスクをしている女の人が『私、きれい?』と話しかけてきました。A子ちゃんが「きれい」と答えると、その女の人は『これでもきれい?』と言ってマスクを外しました。その口は耳元までお~きく裂けていたのでした。おしまい!」
そう言って、萌は「都市伝説」と書かれた本をパタンと閉じました。
「あ~、怖かった」
江口美彩は興奮冷めやらぬ様子で言いました。
「ふふふ、おもしろかったでしょ?」
萌は都市伝説や怪談が大好きなのです。時々こうしてクラスの女の子たちに本を読んで聞かせているのでした。
「そういえば、隣のクラスの子が話してたんだけど、最近、毎朝女子トイレの手前から3番目がいつも閉まってるんだって。トイレの花子さんがいるんじゃないかって噂だよ」
「そうなの!?まさか、うちの学校に花子さんがいるなんて!」
板野きらりの言葉に萌は大興奮です。
「でも、うちの学校って5年前に新しい校舎に建て替えたばかりでしょ?おばけなんてでるのかな」
美彩が首をかしげました。
「新しい学校にだって花子さんはいるかもしれない!明日の朝、みんなで確かめに行こうよ!」
萌の目がキラキラと輝いています。
しかし、黙って聞いていた吉井冴子は言いました。
「やめたほうがいいんじゃないかな」
「なんでよ?わかった。冴子ちゃん、怖いんでしょ」
「そんなことないよ」
「じゃあ行こうよ」
そこへ近くの席に座っていた新井勇太が、呆れながら言いました。
「はん。女子ってくだらねぇな」
「なによ」
「花子さんなんているわけねぇじゃん。おまえら、そんなもん信じてるのかよ」
「確認してみないとわからないじゃない!」
「へへっ。もしおばけがでたら、逆立ちして教室を一周してやるよ」
勇太はケラケラと笑いながら去っていきました。
「悔しい!!勇太をぎゃふんと言わせてやるんだから!」
萌は地団太を踏みながら、勇太への逆襲を考えるのでした。

次の日の朝。
噂の女子トイレの前に、萌、美彩、きらりと冴子の4人が集合しました。
「花子さんはね、手前から3番目にいるの。それでトントンって扉を3回ノックして『花子さん、いらっしゃいますか』って聞くと、『はい』って言って花子さんが出てきて、トイレにひきずりこんじゃうってわけ」
萌は3人に説明をしました。
「萌ちゃん、本当に花子さんがいたらどうするの?」
美彩が聞きました。
「大丈夫!ちゃんと対処法があるの。これよ!」
萌はスカートのポケットからある紙を取り出しました。
「ん?萌ちゃんの国語のテスト?」
「そう。花子さんに100点のテストを見せると、消えていなくなるんだって」
「へぇ。花子さんって勉強ができなかったのかな」
「そうかもねぇ。よし、じゃあ行くよ!」
4人が女子トイレの中に入っていくと、手前から1番目と2番目は空いているのに、3番目のトイレには鍵がかかっていました。誰かが中にいるようです。
萌は緊張しながら、ドアを3回ノックして尋ねました。
「花子さん、いらっしゃいますか」
しかし、返事はありません。
「返事、ないね」
「でも、誰か入ってるよね?」
「その誰かが花子さんかもしれないじゃない」
「もう一回聞いてみよう。花子さん、いらっしゃいますか」
やっぱり返事はありません。その時、始業のチャイムが鳴りました。
「仕方ない。今日はあきらめよう」
「え、明日もやるの?」
冴子は驚いて言いました。
「そりゃそうよ。だって、結局花子さんでてこなかったし。花子さんかどうか確かめるまで毎日行くわ!花子さんを見つけて、勇太の前に突き出してやる!」
萌はさらに闘志を燃やすのでした。

そしてまた次の日。
萌たちが来ると、その日も手前から3番目のトイレだけ鍵が閉まっていました。
「花子さん、いらっしゃいますか」
萌がノックしても何も返ってきません。
「やっぱり返事ないね」
「でも、ドアは閉まってるから誰かがいるのは間違いないよね」
そこで萌はトイレをドコドコたたき出しました。
「花子さーん!出てきてよ~!出てこないと明日も明後日も明々後日も来ちゃうぞ~!」
すると「トントン」と中からノックをする音がしました。
驚いた萌たちは、一瞬息を飲みました。そして、水を流す音とともにドアが開きました。
「あ!」
中から出てきたのは花子さんではなく、同じクラスの羽田琴子でした。
「え!琴子ちゃん?」
驚いている萌たちとは対照的に、冴子だけは落ち着いていました。
「やっぱり、琴子ちゃんだったんだ」
そう冴子は言いました。
「冴子ちゃん、知ってたの?」
「知ってたというか、いつもランドセルは置いてあるのに、琴子が席にいないから、そうかなって思ってただけ。でも私の勘違いかもしれないから言わなかったんだ」
萌はクラスで一番背の高い琴子を見上げながら聞きました。
「昨日トイレにいたのも琴子ちゃんなの?」
琴子はだまってうなずきました。
「な~んだ。花子さんじゃなかったのか!もう、琴子ちゃんが入ってるならそう言ってよ」
萌はがっくりと肩を落としました。
「だって…。毎朝学校でトイレに入ってるなんて、みんなにばれたくなくて」
琴子が視線を落としました。
「あたしなんて、毎日学校でうんちしてるよ!」
萌はあっけらかんと言いました。
「え、そうなの?」
琴子は目をまんまるくしました。
「うん。給食食べたあとにいつも行ってるよ」
「そっかぁ。私、本当は家でトイレに入ってから学校に行きたいんだけど、いつもお父さんが入ってるの。それで、最近は毎朝学校でう〇こしてて…。でもばれたら恥ずかしいから、ノックされてもだまってたの」
「恥ずかしくなんてないよ!トイレいくなんて普通のことだもん。そんなのをバカにするやつがいたら、あたしがとっちめてやるんだから」
「ありがとう」
琴子がニコッと微笑みました。
「それにしても、結局花子さんはいなかったし、勇太に何言われるか…」
きらりが言いました。
「それなら、もう考えてあるよ」
「これよ!」
そう言って、萌はポケットからあるものを取り出しました。
「これをかぶれば…、勇太もおどろくよ~」
萌は不敵な笑みを浮かべました。

「勇太!大変!ちょっとこっちに来てよ」
きらりが教室でマンガを読んでいる勇太を手招きしました。
「なんだ、なんだ」
勇太はきらりに連れられて、女子トイレの入り口にやってきました。
「ちょっと、あっち向いててね」
すると、入り口とは逆のほうを向かせられた勇太の肩を、誰かがそっとたたきました。
「あん?なんだよ」
勇太が振り返ると、そこに口が耳まで大きく裂けた女が立っていたのです。
「で、でた~!!」
勇太は腰を抜かして、ペタリと床に座り込んでしまいました。
「作戦、大成功!」
口裂け女のマスクを脱いだ萌はクスッと笑うのでした。(おしまい)

シリーズ
「3年3組 忘れ物はつらいよ」
「4年3組 目指せ!優勝」

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石森のぶ
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