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ニューヨーク駐在記録「フードフェスティバル」

 息子のクラスで「フードフェスティバル」というイベントがあった。アメリカは移民の集まりだ。それぞれの人にそれぞれの国のルーツがある。そこで、各家庭の食べ物を持ち寄り、親やクラスメートたちとシェアして、互いの文化を知ろうというわけだ。
 私は息子と何を持っていくかを考えた。日本らしい食べ物って何?お寿司?卵焼き?肉じゃが?おにぎり?
 でも、お寿司はスーパーでも売ってるし、魚介のだし入り卵焼きがアメリカ人に受け入れられるのか、肉じゃがは冷めたら美味しくないかも…とか色々考え、結局、息子の好きなおにぎりに決定。おにぎりはアメリカでは一般的ではないけど、日本の家庭料理だし、簡単に作ることができる。
 私たちは、事前におにぎりの作り方と紹介を載せたポスターを作成した。大きな紙を用意して、私がおにぎりのレシピを書いて、息子がおにぎりの絵と日本の国旗を描いた。
フードフェスティバルは朝8時開始。私は当日の朝5時に起きて5合米を炊いた。好き嫌いもあるし、全員食べるかはわからないけど、先生2人、クラス全員+その親たちが来るわけだから、それなりに量が必要なのだ。
 炊いたご飯は一口サイズのラップおにぎりにした。おにぎりは野菜ふりかけ、鮭ふりかけ、塩おにぎり、のりおにぎりの全部で4種類。大きなタッパーにそれらをつめて、家族全員で出発。
 教室はテーブルがコの字に並べられていて、私たちは先生に言われた席に着いた。私たちはまずテーブルにポスターを張って、4枚の紙皿の上に種類ごとにおにぎりを並べた。
フェスティバルはまるでお店やさんのようだった。クレープ、焼売、ケーキ、ミートボール、ナン、タコス…本当に世界中の食べ物が集まった。
 息子は自分の席で、みんながおにぎりを取って行ってくれるのを待った。しかし…誰も寄ってこない…。ポスターを見ても素通りだ。私はめちゃくちゃ不安になった。見栄えが悪かったかな、寿司にすればよかったかな…とあれこれ考えた。ふと見ると、ケーキや焼売は飛ぶように売れている。そして、この時ようやく私は気付いた。ここにいる誰も「おにぎり」を知らないのだ。見たこともない食べ物に手がでないのは当たり前なのだ!あぁ、大失敗ぁぁぁ!!
そして何より、息子がどう感じているのか気になった。息子はずっと無言だった。私は気まずい雰囲気をどうにかしようと、「おなかすいたんじゃない?何か取ってこようか?」と聞いた。しかし、息子は「いらない。おなかすいてない」と言う。そんなわけない。フェスティバルがこの日の朝食代わりだったから朝から何もたべてないのに。息子の表情はかたい。
 そうしているうちに、夫と各テーブルをまわっていた娘が帰ってきた。何を食べたのか、口のまわりにはチョコレートがべったり付いていた。そして、おにぎりに手を伸ばした。「食べちゃダメよ」と言いそうになったけど、どうせ誰も食べないので、黙ってみていた。娘は慣れた手つきでラップと取り、むしゃむしゃと鮭ふりかけのおにぎりを食べだした。
 すると、それを見ていた中国人ママが「これ、何?」と聞いてきた。息子は「Japanese Rice Ball」と答えると、「どんなもんかしら?」って顔をしながらおにぎりを手に取って食べてくれた。どうやら中国にはおにぎりがないらしく、珍しそうにポスターやおにぎりの写真まで撮っていた。これをきっかけに、おにぎりが少しずつはけていって、気づけば20個ぐらいなくなっていた。
 息子もほっとしたのか、夫が取ってきたケーキやミートボールを食べだした。
 フェスティバルもあと10分で終了くらいになったとき、おにぎりは残り10個ぐらいになっていた。
 すると、息子の近くに座っていた男の子が「1個ちょうだい」と言うので、一つあげたところ「何これ!初めての味だ!」と言いながら、3つも4つも食べてくれたのだ。息子は「食べすぎでしょ」と笑っていたけど、すごくうれしそうだった。
結局、フェスティバル終了後、私が持ち帰ったのは空のタッパーだけだった。

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石森のぶ
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