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ニューヨーク駐在記録「NYのにおい」

2016年12月。
私は夫、4歳の息子と生後3カ月の娘とともにJFK空港に降り立った。

NYに来るのは初めてだった。夫が転勤にならなければ、今もNYには来ていなかったであろう。
そもそも私は海外旅行が好きなタイプではないし、英語もまるでダメ。直近に受けたTOEICは万全の対策をして臨んだのにも関わらず330点だった。しかも、帯同するにあたり約10年間勤めた会社を退職し、専業主婦にならなければならない。これまでの生活とは全く違う。そんなわけで、夫の赴任についてくるのは、自分の中で本当に大きな決断だった。


そこで私は、渡米前に一つの目標を掲げた。それは「鬱にならない」こと。
「英語の上達」とか「NY生活を楽しむ」とか前向きな気持ちを持てればよかったんだけど、私は事前に駐在ブログや駐在妻向けの本を読んで、駐在の奥さんの中には慣れない環境で鬱になってしまうケースが少なくないことを知っていた。だから自分は最低限、鬱にならずに暮らしていこうと心に決めたのだ。

JFK空港は思っていたよりずっと小さくて、古かった。大都市NYの国際空港なんだから、さぞかし大きくて新しくて立派なんだろうと勝手に想像してたのに、全く違った。入国審査は、自分が乗ってきたのとは別の飛行機も同時に到着したようで、狭い通路に先が見えないくらいの長蛇の列。

そして、早くも試練が訪れた。それは「におい」だ。
私は渡米前に読んだ『海外赴任のために必要なこと 駐在員家族のメンタルヘルス(著:下野淳子)』に「この「匂い」をどう感じるかが、その都市に住めるかどうかを左右するカギになります。」 と書いてあったのを思い出していた。
たしかに、列に密集して並んでいると、日本では経験のないにおいを感じた。香水が混ざったような、体臭がまざったような、カレーのスパイスがまざったような。とにかく、あまりいいにおいとは言えなかった。でもここでこれを拒否してしまったら、私は鬱への第一歩を踏み出してしまう。だから「慣れなきゃ」「受け入れなきゃいけない」と必死に自分に言い聞かせた。
そうしているうちに、列が進み、入国審査を終えたころにはだいぶこのにおいに慣れていた。対鬱の第一関門突破であった。

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石森のぶ
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