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君と僕ならばこれが似合いの約束だから

 ねこがなくなって20日ほどが過ぎた。
 未だに最後にねこが使ったトイレは、猫砂もトイレ本体も捨てられずに、そのまま残っている。
 単に捨てるのが面倒だからというのもあるし、ねこの足跡が残っていて、躊躇してしまうというのもある。
 病院に通っていたことでたまった、診療費明細書。最後の2ヶ月ぐらいは毎日通っていたのでたくさんあり、これもなんとなく捨てられずに紙束になっている。見返すと闘病中ずっといっしょにいたことを思い出せる。
 最後の日に遊んだおもちゃもあるし、あちこちに思いもよらない思い出の品がまだ、たくさんあるんだろう。

 なくなったあとでくるんでいた、普段はねこがよくそこで寝ていた、かわいい柄のタオルケット。
 遺体から血が出て汚れてしまい、かなしかった。一緒に焼くには大きすぎて焼けなかったので、一度洗ってから捨てるつもりだった。
 これも捨てられずにまだある。
 昨日の夜寝る前に何気なくこのタオルケットを手にしたら、胸がいっぱいになって抱きしめてしまった。
 寒くなってきた。この時期の一人の布団はさみしい。一人のこたつも。
 思い出の品は四十九日ごろに振り返って、いらないものはなるべく捨ててしまおうと思っている。

 時間が過ぎて、一日中のつらさやかなしみはほとんどなくなった。
 楽しいことも笑うこともある。でもしみじみと、ずっとかなしい。
 月日を費やせば薄まるものもあるだろうし、季節をめぐるたびにより鮮明に思い出すこともあるだろう。冬が深まって、春になって、夏が来て、そうしてようやく「こんなことがあったな」と振り返れることが。
 俺だけまだ良い思いをさせてもらってしまっているなと、感じている。

 なくなったあとのねこをなでながら、よぎる歌があった。
 作詞家のときに俺が歌詞を書いた『約束』という歌だ。
 作品を残すということは、いいものだ。

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『約束』

ここでやさしく
なでまわされてる
腕や毛や腰
とてもやさしく
 
消えていければ
とてもいいだろう
消えていくんだ
もう決めたんだ
 
僕と一緒に
君も消えよう
そして一緒に
空を見上げよう
 
新しくなった
朝も迎えず
ここできれいな
肌のままいよう
 
先にゆがんだ
景色見えるね
きっとあの道
行った先には
 
怖がらないで
目を開けないで
お願いだから
僕も見ないで
口も利かずに
夢の笑顔で
 
ずっとそのまま
ずっとそのまま
ずっとそのまま
 
君と僕ならば
これが似合いの
約束だから
お願いだから
おやすみなさい
ずっとそのまま

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