剣脚商売第三話 生半可じゃない黒ギャルナマ脚
「いつも通りに夢藤と二人で罠張ってたら、マジびっくりしたし。礼賛が釣れるとか、ぱねえっす!」
闇に紛れて本性現し、ケタケタ笑う金髪黒ギャルは、「どぉ? できたし(*゜∀゜)」の字幕キャプション付きの手作りマカロン画像をネットにアップし、閲覧数を加速度的に上げていく。
画像に映り込む彼女のナマ脚も、アクセス数稼ぎには大いに一脚買っていた。
菓子と女子、双方の力を持ってプラスの女子ネットパワーを、晒した美脚に溜め込んでいるのだ!
この者、名を、『光田イクミ』と言う!
「うち、光田イクミ。こう見えて女子力高めっす。アゲていくし!」
「夢藤狭軌ですぅ~。イクミちゃんに比べてわたしは女子力とかないんでぇ~……。全然可愛くないんですけどぉ~。あっでもこのニーソ可愛くないですかぁ?」
光田イクミと夢藤狭軌、二人の女子の賛美と卑下。
プラスとマイナスの女子ネットパワーが双方ともに高まりだし、ナマ脚とニーソが驚異的な磁力で一箇所に引き寄せられていく。
その狭間にあるは、月脚礼賛の低デニール薄黒シアータイツの煌めく美脚。
またたく間もなくナマ脚とニーソは前後からぶつかり合い、必殺のダブルレッグラリアートにて犠牲者の履物を奪うのだった!
「ロスト・ボンバーッ!!」
「きゃああっっ!?」
夜の空き地の途切れかけの明かりに照らされ、宙に浮かぶは一切れのストッキング。
ひらりゆらりと舞い落ちるそれを、菓子作り用のトングでカチリとつかみとって確認する、ナマ脚黒ギャルこと光田イクミ。
「あれ? これ、ナチュラスストッキングじゃん!」
「危ない……ところ、でしたね……!」
驚くイクミにあかんべえをして、満足そうに気を失ったのは、誰あろう。倒れ伏していた新米刑事であった。
この者、名を、『溶岩幸子』と言う!
ヘル・レッグケルズのロスト・ボンバーに襲われた月脚礼賛を守るため、幸子は自らの脚を犠牲にし、これに割り込み倒れ伏したというわけだ。
「役に立ったな、警察女。仇はわたしが討ってやる。安心して寝ていろ」
「あ、あなたは……何者なんです……か……?」
「ここにいる果轟丸に、買われた女さ」
「商売女……ね」
気を失った溶岩幸子は、しかしあれほどの斬撃の挟みこみを受けて、傷ひとつ負ってはいなかった。
パンツスーツの下のナチュラルストッキングを、奪い取られただけのようである。
「なあ礼賛。この姉ちゃん大丈夫なのか?」
「大方、プラスとマイナスの女子力を体に打ち込まれて、ホルモンバランスが狂ったんだろう。女はこういうのは慣れている、寝かせておけ」
「お、おう」
首を傾げながら溶岩幸子を放置する、轟丸少年であった。
「さあて、拾った命は大事にしないとな。夢藤狭軌に……光田イクミと言ったか? お前らわたしに何の用だ。誰が釣れて、“ぱねえ”んだって?」
「やだ~、怖いですよぉ。次の女子ネットパワーをすぐに溜めないといけないですよねぇ~」
媚び媚び服にニーソの夢藤狭軌は、またもやスマホで哀れなサークル男子にかまってちゃんして、マイナスの女子力を高めんとする。
だがしかしここにきて! 人の文明の限界、いともどかし。
Wi-Fiの接続がいまいちなのである。
「夢藤、ここはうちに任せるし! 闇討ち狙いで横になってたうちは、パワー溜まってっから一人でもいけるっしょ。早くネットパワー充填しなおしな?」
「うん、お願い光田~」
スマホをぶんぶん振りながら適切な回線を求めさすらう深夜のニーソ女、夢藤狭軌。
ちなみにその腕は血まみれである。不審者待ったなしであった。
では残った黒ギャルを前にして。月脚礼賛、鼻を鳴らして曰く。
「被害者のふりをしていた姑息なギャルが、一人でわたしを相手取れるか?」
「ねえ月脚礼賛、強いんっすよね? ヤバイ! ぱねえ! でもうちもアゲてくし?」
「履物も履かぬ素人ハダシに、剣脚の相手が務まるとでもいうのか」
「それがイケんだって! ギャルなめんな!!」
ミニスカから伸びる日焼けした両脚を揃え、「ぶおん」と打ち付ける光田イクミ。片足を上げ脛でそれを受け止めようとした礼賛だったが、剣圧がそれを許さなかった。
切れ味を察した礼賛はとっさに飛び退き、イクミの一撃をかわしてみせる。身代わりとばかりに空き地の土管は、切れ味と破壊力で粉微塵に破砕される。
「……ギャル、お前……。そのナマ脚で、本気で斬り合う気か?」
「ったりめーだし! うちも美脚鍛えてるし? マジキレるっしょ」
「とはいえそれは諸刃の剣だぞ。自殺行為だ」
「ギャルは覚悟決めてんの。ナマ脚出すのが怖くちゃギャルやってられないっすわ!」
賢明な諸氏は既に周知の事であろう。美しくなることにより刀剣の如き切れ味を持つ美脚は、そのまま振るっては自らの身すら傷つける。
持ち手のない刃物を振り回すことがいかに危険な沙汰であるか。パンチンググローブを身につけるからこそボクサーは、自らの拳が割れるのを恐れること無く、渾身の一撃を放つことが出来るのだ。
女子の美脚もこれに同じ。その艶かしさを存分に振るうには、ぴたりと覆う一枚の布地がどうしても必要なはずだ。
では一体このナマ脚黒ギャル光田イクミは、なぜ危険な武装たる美脚を余すところなくさらけ出して、尚且つこうも振るうことが可能なのか?
「マジ痛いけどそんぐらいガマンするし。ギャルは生半可な気持ちで脚出してんじゃないんで!」
「諸刃の剣を根性論で押し込めるか」
苦笑いの月脚礼賛に、自らのダメージを顧みないイクミの剣が、再び襲い掛かる。
「根性ォ!」の声とともに襲いかかる剛剣キックが、空振りのたびに空き地の遊具を破壊していく。
右へ左へカモシカのような足取りでそれをかわす月脚礼賛。受け止めることは不可能なほどの強烈な斬撃だが、大振りなためにかわすこと自体はさほど難しくはない。
とはいえ、一度当たれば致命傷であるというプレッシャーは凄まじく、礼賛にも汗がにじむ。危険に汗ばむ礼賛の脚線美を真っ先にとらえたのは、そのパートナーの轟丸少年だった。
彼もこの戦いに巻き込まれる事のないように距離を取りつつ、それでいて戦う月脚礼賛のナイロンストッキングから、目を離してはいなかった。いや、目を離すことなど出来なかった。
注目は美脚を更に美しく浮かび上がらせ、戦いの中の伸びやかな脚は、より生き生きと濃淡を描き出していく。
美しさにより人智を超えた動きを得た月脚礼賛、逆転の一脚! ついには光田イクミの攻撃の隙を縫って、美脚の一刀を届かせることに成功する!
「もらったぞギャル!」
「ざ~んね~んで~した~ぁ」
ナマ脚黒ギャル・光田イクミが眉ひとつ動かさずに月脚礼賛の薄黒ストをその身に受けたのは、仲間への信頼が故だった。
戦場に返り咲いて割り込むは、負の色を纏う破滅の華。
女子ネットパワー・マイナスを再び溜め込んだ夢藤狭軌が、ヤンデレスマイルともに現れ、ニーソの絶対領域にて斬撃を跳ね返したのである。
「夢藤、助かったし」
「あ~、光田またナマ脚傷だらけにしてるぅ~」
「こんなん日サロで焼けば消えるし」
「消えないですよぉ~、もう~……。綺麗~……」
イクミのナマ脚の傷から血を拭い、手指で弄びうっとりの、夢藤狭軌。 さすがは轟丸少年をして初見で「頭のおかしそうな姉ちゃん」と言われただけはある。
「防御を無視した諸刃の剣と、絶対領域の盾。矛盾コンビか。強敵だぞこいつは」
「お、おい、礼賛! 大丈夫かよ、負けんな!」
「負ける気はない。だがこのままで、果たしてわたしも勝てるものか……」
弱気な発言でうずくまる月脚礼賛を見て、高らかに笑うニーソ女、夢藤狭軌。
自らの力を誇示しようと彼女がスマホから流すBGMは、荘厳な鐘の音と共に男女混声合唱団が織りなす歌。
絶対領域黙示録の始まりである。
「よっし、決めるし夢藤! 女子ネットパワープラス!!」
吠える黒ギャルのナマ脚に、磁力に反応した砂鉄とトングがじりじりと吸い寄せられていく。
かたやニーソ女の、太ももまでがピタリと覆われた美脚にも、マイナスの磁場が高まっていく。
「そこまでだお前ら!」
タイツ狩りの準備整いし中に割り込んだ、男の声。
幸子の先輩、黒スーツの中年刑事が官憲勢力を伴っての登場であった。
この者、名を、『延山篤郎』と言う!
月脚礼賛と果轟丸、ヘル・レッグケルズ、警察。三すくみの状況となってしまった、美脚だらけの夜の空き地。
「今だよ、鉄人」
ところがそこに四すくみめとなる囁きが響く。
静かな号令に呼応してにゅっと闇夜に姿を表したのは、長い長い長い実に長い、網タイツ美脚とハイヒールだった。
大股に歩く網タイ女は、轟丸少年と月脚礼賛をむんずと掴み、小脇に抱えてその場を去ろうとする。
「な、なんだあ、お前!??」
驚きと疑問の言葉を発したのは、轟丸少年と中年刑事の双方だった。
網タイ女はその問いかけに「鉄人」とだけ返し、ずんずんと歩み去る。
一歩一歩の歩幅がとてつもなく長いので走ってないのに妙に早い。
「ちょっ……ええ!? せっかく釣れた礼賛返せし!」
「町長に雇われた刺脚かな? だったらわたしたち、協力し合ったほうが良くないですかぁ?」
ヘル・レッグケルズの言葉も気にしない網タイ女。
「止まらないと撃つぞ、おい?」
警察の呼びかけにも答えず無言で歩み去る網タイ女。
剣脚に対する発砲の許可はたやすく降りるのが、この脚長町。脅しにとどまらず実際に撃ち込まれる銃弾だったが、それすら網タイ女は意に介さず撃たれて去った。不死身かよ。
次回、剣脚商売。
対戦者、網タイツハイヒール巨女。