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個人図書館 3


 私のアパートの部屋に、弥生さんと美奈子さんが来ました。
 私の部屋を誰かが訪れることなんて滅多に無いことですし、それが一度にニ人もの人が訪れるだなんて、なんだかおかしなことになってしまったものだと思うのです。

 私の部屋にある本棚を眺めて、二人はとても満足した様子でした。私の本棚に並ぶ本は、文学と音楽とアートです。
 文学に関しては、ここ十年くらいの芥川賞受賞作、候補作などがそろっています。
 古典的なアメリカ文学なんかもあるんです。
 スコット・フィッツジェラルド、トルーマン・カポーティ、サリンジャーなどなど。
 音楽系はビートルズやローリング・ストーンズやアヴィリル・ラビーンなど。
 アート系は写真集や画集、イラストなど。
 洋書もあったりします。ただし英語はあまり得意ではありませんが。

「何だか素敵」
 と弥生さん。
「雰囲気があるね」
 と美奈子さん。
 二人が口々に褒めてくれて、私は照れてしまいます。それらは私の自慢の蔵書なので、とても嬉しかったのです。

「個人図書館別館、決定ね」
 みな微笑みあいます。

 私たちはみんな、恋人がいません。
 きっと、本が恋人なんだろうな、と思います。
 そんな個人主義の人間が、なぜだか集まって、個人図書館であう。
 何だかとっても素敵です。

 私たちは黙々と本を読みます。
 珈琲や紅茶を飲み、ドーナッツやシュークリームを食べ、本を読みます。

 私たちがこんな読書倶楽部を楽しんでいると、玄関のチャイムが鳴りました。
 訪れたのは私の友達の木原康男でした。
 康男はこの光景を見て、戸惑っています。
「な、何、この雰囲気」
 ふふふ、と不気味に笑う私たち。
「いや、そんなに本が好きなの?」
 と不思議そうに私たちを見る康男。
 うんうん、と無言で首を縦に振る一同なのです。

「僕なんか漫画しか読まないからなあ」
 と、自分はとてもあなたたちの仲間にはなれませんよ、といった口調の康男です。
 ですが「漫画、好きなんですか?」という美奈子さんの素朴な問いかけに、安易に答えるべきではなかったのです。
「うん、もう部屋中漫画だらけだよ。本当に、こことは大違い」
 と、何気なく言い放った康男の言葉に、みんなの目が光りました。

「え?」
 何か悪いこと言ったかなあ、という表情になる康男。

「漫画文庫ってのも、有りだよね」


つづく。

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