現在あるオタク・1 美白・小顔・いずれもマ(ry
本日、オタク夫婦は若手俳優のイベントに行って来た。
自分の息子ほどの年の俳優、稲葉友君のトークイベントである。
実はイベント日程が発表されたとき、旦那は既にイベ翌日入院でがん手術、という事が決まっていた。
腎臓癌である。二個ある腎臓の一つを摘出する。
そんなに大きくないとは言え、職場の検診で見つけてもらい、即大学病院のガン病棟に回されたという事実が恐ろしく、どうしようか考えていた。
「旦那、行く?」
「うん行く。彼好きだし面白そうだし、元気もらって入院に挑む」
事実にビビる私と違い、旦那はにこにこしながら即答した。
でもわかる。彼が一番怖いのだ。
夫であり父親だから笑っているけど、人一倍怖がりな旦那だ。
体の事は心配だったが、入院後は暇だから寝ていられるし大丈夫、チケットお願いという旦那の声で、私はチケットを取った。
運よく正午からの一部が二枚取れた。場所は代官山。旧山手通りの新しいイベントホールである。
近い。うちから30分くらいだ。私達は心躍らせてその日に臨んだ。もちろん一週間分の入院準備と並行して。
とまあ、そういうわしらの事情はさておいて。
うららかに晴れた12月3日。ニチアサを見終わってすぐ出発した。
車(30年物のフィアット)も快調。環七も旧目黒通りも空いていて、30分で代官山に着いた。
ここからが問題だ。旧山手通りのパーキングスペースはどこもいっぱい。
やむを得ない場合の路上駐車の許可証はあるのだが、それも使えない程道の両側に車がいっぱいだ。
無理もない。お洒落タウン代官山。私達の母校の大学から近いのだが、昔からとにかく混むのだ。
お洒落ゾーン西郷山公園から離れて離れて、マレーシア大使館近くに駐車場を見つけてやっと停められた。
私達の車が滑り込んだ直後、立て続けに車が入庫し、あっという間に一杯になったから幸運と言える。
会場は、かつてドラマ「王様のレストラン」のロケ地になった、フランス料理の「マダム・トキ」やモンスーンカフェ、カトリック渋谷教会に近い鉢山町にある。
ちょうど西郷山公園下に旧道が通り、住民の生活道路として東急の小型循環バスも走っている。
瀟洒な手すりの西郷橋に肘をついて、旦那と私はのんびり余裕をかましていた。
イベントに参加する様子の女性たちが大勢通る。
どうやら橋の脇の階段を下りていくようだ。
そろそろかなあとおしゃべりをいったん止めて階段を下りると、そこは個人の邸宅だ。
おかしいなと旧山手通りと二往復くらいしたら、その邸宅の向こうが入り口だったのだ。
余裕は吹き飛んで、私ら夫婦は慌てて列に並んだ。結果、90番台だった。なんてこった。
開場前の待機場所は、とにかく女性がいっぱいである。
若い、精一杯のお洒落をした女性たち。
推しに自分の一番可愛い姿を見せたいという健気な心いっぱいの、心弾ませた女性たち。
素敵だ。いいものだ。輝いている。
私たち夫婦はというと
「あー老眼鏡忘れてきた」
「膝の神経痛が」
などと会話がいちいち老人である。寄る年波には勝てない。命短し恋せよ乙女。
そのうち開場し、乙女たちの列は粛々と動いて行った。
そして階段である。年寄りには厳しい。
それが代官山という地の高低差という宿命だ。
しかし、推しが下りてくる階段は最高に尊い。それはまた後程描く。
場内に入った人波は、一度三階まで上って、物販とツーショットチェキの券を買う。
買わない人はそのまま二階の、シリアルナンバーがふってある自席で待つのだ。
「チェキ、撮るよね」
私は鋭く問うた。
「え、俺親父だしいいよお」
「記念に、撮るよねっ」
「……撮ります」
夫婦二人でチェキ券を買った。
親ほどの年の夫婦と写真を撮ることになる稲葉君、頑張ってほしい。
私達はそのままイベント会場2階ホールに降り、席に着いた。
結婚式やパーティー、撮影に使われるであろうホールは、ずらりと座り心地のいい椅子が並び、前方真ん中からやや左に螺旋階段がある。
スターさんが歌いながら降りてきそうな、瀟洒な階段である。まあおしゃれ。
「絶対ここから降りてくるんだよね」
「なんなら歌いながら降りてくるかも」
「それ、なんてミュージカルだよ」
と言いつつ、私達二人は気付いていた。
私と旦那が会場内の平均年齢を否応なく上げていることを。
ごめんね、くたびれたデブのおばさんと、スキンヘッズのおじさんが雰囲気壊してて。
そんな感じの、おしゃれした女性たちのお花畑であった。
定刻をやや過ぎ、入場の音楽に多少トラブルも見られながら、ようやくスポットライトを浴びた稲葉君が満場の視線を浴びながら降りて来られた。 しんと鎮まり、ワクワク感Maxに会場の空気に満ちる言葉は、恐らく
「白い……」
「白すぎる……」
「美白にもほどがある……」
洗剤のコマーシャルにもあるが、稲葉君のお肌の、驚きの白さである。
ドーランやファンデではない事は、手や首や耳の中まで真っ白ということでわかる。
きめ細かく真っ白。
嘘だろ、これが本当に新陳代謝盛んな年ごろの男性のお肌か。
歌いこそしなかったが、優雅に、ややはにかみながら螺旋階段を下りてくる、宝塚の男役より白いお肌の推しに、早くも語彙を失った私だったが、旦那は
「やっぱりマッハだ。スーツ無くても白いライダーだねえ」
解説しよう。
彼、稲葉友君は若くして舞台やドラマで活躍していたが、一気に全国区に名前を広げたのは、「仮面ライダードライブ」という作品の、過酷な運命と戦う白いライダー(白の魔法使いではない) 『仮面ライダーマッハ」になる青年・詩島剛を演じてである。
運命と戦い、克服していく迫真の演技は古いライダーオタの心もがっちりつかみ、旦那は
「詩島剛とマッハは近年まれに見るかっこいいライダーなんだよ」
と力説している。
そんな、原節子並みに目の大きな美白青年が目の前にいる。素人物書きの私の脳内から「尊い…」以外の語彙は消えた。
(イベントの中身編に続く)