デザインとは、関係の構築であるという話。
本屋さんに行って、だいたい隅っこの方にあるデザイン書のコーナーを見てみると「Illustratorの使い方」のような本がたくさん出版されています。また、WebやSNSを見渡すと、毎日のようにデザインのTips的な情報がたくさん飛び交っています。
このように、世の中はデザインの「技術論」であふれています。もちろん、デザインにおいて技術は大事です。私も、Tips的な記事にはいつもお世話になっています。
でも残念なことに、小手先のテクニックばかり勉強していても、なかなか上手にならないのがデザインの難しい所です。
たとえるなら、いくらレシピ本をたくさん読んで料理を作っても、一流シェフにはなれないのと同じです。
デザイナーという肩書を名乗って実際に仕事をしてみると、まずぶち当たるのがこうした「壁」です。
最低限必要な技術は身につけたとして、それをどう応用して難しい課題に臨機応変に対応していくか。他とは違うオリジナリティや魅力といったものを、制作物にどう付加していけばいいのか。一生懸命デザインしたものを、相手にどう伝えれば良いのか。
いざ現場に出てみると、技術的な経験値に加えて、様々な状況に対する「心構え」や「考え方」のようなものが必要であることに気づくはずです。
そこで、私はあえてデザインに関する「精神論」を書いてみることにしました。精神論というと、通常は「暑苦しくて抽象的な理屈」として揶揄する意図で使われることが多いと思います。
しかし、そのくらいがちょうどいいのです。精神論だから、当たるも八卦、当たらぬも八卦。すべてが諸説あり。信じるか信じないかは、あなた次第。
まがりなりにも20年ほどデザイナーをやってきて、色々経験した中で得られたよしなしごとを、つらつらと書いてみたいと思います。
意外と大事なんじゃないかなぁ、精神論。
デザインの読み方
ということで第一回目は、デザイナーにとっての永遠のテーマ「デザインとは何か」ということについて、精神論をお話しできればと思います。
これについては、実は「デザインの読み方」というタイトルで新しく本を書くつもりで、温めている考え方があったのです。ただ、このnoteで書くのはちょっと大変そうなので、別の方法を考えました。それが、この「数行文庫」という新しい本の形式です。
まずはこちらをスマホで読んでみてください。
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どうでしょう。内容のボリューム感の割には、意外とすんなり読めたのではないでしょうか。この形式は、数行の文章をポンポンとスライドのように読み進めることで、大量の文字列を読むよりも簡単に内容を把握することができるのではないかという、ある種の実験であり、これもまたひとつのデザインです。
読んでもらえればお分かりの通り、ここでは一貫して「デザインとは関係の構築である」ということを書いています。
デザインというのは、一見すると文字組みの美しさであるとか、色使いのキレイさであるとか、そういった要素そのものの美醜ばかりに目を奪われがちです。いわゆる「デザインは表面上のスタイリングではない」という話は、どんな入門書にも書かれているようなことかと思います。
しかしそれを分かった上で本当に重要なのは、「目では見えない関係性をいかに構築するか」ということなのではないか、と思うのです。
上記の「デザインの読み方」の中では、次の4つの「関係」が大事であるとしています。
この「関係をつくること」がデザインの面白いところであり、難しいところでもあるのですが、良いデザインと悪いデザインの差は、この関係づくりの上手い下手で決まるのではないか、とすら思っています。
与えられた要素をただ並べるだけなら、誰にでもできます。ただ、それをどういう関係で配置するか、それを見る人や周囲の環境との間に、どういう関係を築くか、というところが、デザイナーの本当の腕の見せ所なのです。
ちょっと身のまわりにあるデザインを見渡してみてください。自分がいいなと思うデザインはどこが良いのか、あまり好きでないデザインはどこが気になるのか、ふだん何気なく好き嫌いを判断している中にも、必ず理由があるはずです。
それは単純に「かわいらしいから」とか「カッコいいから」とかでも構いません。ただ、その「かわいらしさ」や「カッコよさ」にも、何か理由があると思います。色の使い方が心地良いとか、デザインがスッキリしていて気持ちがいいとか、少しずつでいいので、気になることの解像度を上げてみましょう。
おそらくそれは、煎じ詰めると「色と形の関係」であったり「文字と余白の関係」であったり「写真と言葉の関係」であったり、何らかの関係が作用しているのではないでしょうか。
限られた領域の中で、すぐれたデザイナーは、ユーザーにとって気持ちのいい余白の取り方や、心地よい色使い、分かりやすい情報の整理の仕方など、いい「関係」のつくり方を知っているのです。
ただ、残念ながら世の中に出ているデザインは、すべてが良いデザインではなかったりします。いろんなデザインがあるからこそ面白いとも言えるのですが、デザイナーであれ、そうでない人であれ、デザインの良し悪しを見極めるための「目」を持つことが大事です。
そのひとつの基準として「そのデザインは、いい関係を築けているかどうか」という視点を持って生活してみると、デザインをより楽しむことができるのではないかと思うのです。
ちょっと抽象的な話に聞こえるかもしれませんが、まぁ精神論ですから。そのくらいのつもりで聞いていただけると幸いです。
ではまた次回。