Vol.174 紅麹だけの問題じゃない!? 本当に良いの?機能性表示食品の誇大広告
*2024年4月30日発行のメルマガから転載
桜の季節が終わったと思ったら、4月なのに早くも初夏を思わせるような日が続き、「Tシャツ日和」になってきました。
昔(1990年代)と比べると、夏に向けての季節の進み方が半月くらい早まっている気がしますね。
今年はGWが前半と後半の間に平日が3日間挟まっており、仕事されている方も多いかと思いますが、皆さま気持ちの良いGW後半を過ごされますように!
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【記事1】 ホルモン陽性・HER2陰性の進行乳がんに、新たな治療選択肢
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ホルモン陽性・HER2陰性は、乳がんの中でも最も多く、大体7割くらいの方がこのタイプに当てはまります。
このタイプの乳がんの治療は、女性ホルモンの働きを止めるホルモン治療が主軸で、術後療法はもちろんのこと、進行・再発ケースもそうです。
そこに、パルボシクリブ(イブランス)、アベマシクリブ(ベージニオ)等のCDK4/6阻害剤と呼ばれる新しい分子標的薬が登場して、進行/再発の一次治療の標準療法に加わったのが2017-2018年頃。
そこからは日本では目立った進展がしばらくなかったのですが、今春大きな動きがありました。
■「AKT阻害薬カピバセルチブとフルベストラントの併用が内分泌療法既治療の進行乳癌を対象に承認」(がんナビ)
PI3KやAKTのシグナルが活性化していると、がんを制御するPTENと呼ばれるタンパク質の働きが抑えられてしまうため、それらを阻害しようという発想で開発されたのがカピバセルチブです。
CAPItello-291試験というフェーズ3治験で、「カピバセルチブ+フルベストラント群」が「プラセボ+フルベストラント」群と比較し、、7.2 vs 3.6ヶ月と、有意にPFS(無増悪生存期間:更なる進行までの期間)を延長した結果をもって、承認となりました。
このカピバセルチブの登場により、米国の標準治療ガイドラインも改訂されました。
■ “Endocrine and Targeted Therapy for Hormone Receptor–Positive, Human Epidermal Growth Factor Receptor 2–Negative Metastatic Breast Cancer—Capivasertib-Fulvestrant: ASCO Rapid Recommendation Update”「ASCO推奨治療の迅速更新:ホルモン陽性・HER2陰性転移性乳がんへの内分泌・標的治療-カピバセルチブ・フルベストラント」(Journal of Clinical Oncology)
ホルモン陽性・HER2陰性の進行/再発の一次治療は、先ほどのCDK4/6阻害剤+アロマターゼ阻害剤。
その先の二次治療は、カピバセルチブの登場により、以下の場合分けで変わってきます。
・ESR変異陽性→エラセストラント or フルベストラント+エベロリムス
(エラセストラントは日本では未承認です)
・PIK3CA変異陽性→フルベストラント+カピバセルチブ or フルベストラント+アルペリシブ or フルベストラント
(アルペリシブは日本では未承認です)
・AKT変異陽性もしくはPTEN不活化→フルベストラント+カピバセルチブ or 化学療法
・ターゲットとなる遺伝子変異陽性がない場合(つまり上記以外)→フルベストラント or フルベストラント+エベロリムス
また、上記の場合分けに入っていませんが、既存のホルモン陽性・HER2陰性の患者さんの中には、HER2が弱陽性だったりBRCA変異が陽性だったりするケースも十分考えられ、その場合、また推奨される治療が変わってきます。
これらが意味するところは、「個別化治療」の更なる進展、つまり今まで「ホルモン陽性・HER2陰性」と大きく括られていたサブタイプも、そこから先の更なるサブタイプによって治療が変わってくるということです。
これは、どのがん種にも同時進行的に起きている変化で、標準治療も「場合分け」がどんどん複雑化して一本道ではなくなってきています。
それを理解し適用していく先生たちも大変ですし、患者さんやご家族にとって、選択肢を理解・納得して治療を進めていく難易度は更に高まる一方。
今後は、AIの力も借りながら、治療選択について患者さんやご家族が納得できる形でコミュニケーションしていく手法の開発が求められているのではないでしょうか。
※本稿執筆時点(2024年4月30日)で、筆者はカピバセルチブに関して、利益相反はありません。また、本稿では日本では未承認の薬剤も紹介していること、米国の治療ガイドラインは日本の治療ガイドライン(標準治療)とは異なるものであることはご留意ください
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【記事2】紅麹だけの問題じゃない!? 本当に良いの?機能性表示食品の誇大広告
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小林製薬の紅麹での健康被害問題、かなり大きな話題となりましたね。
小林製薬の粗雑な対応は批判されて然るべきですが、一方でこの問題を個別企業の問題で終わらせて良いものではなく、構造的な問題として捉えるべきと私自身は考えています。
この点について考察が加えられている良記事があります。(有料会員のみ閲覧可能なので、ご注意ください)
■「これは紅麹や小林製薬というより『機能性表示食品制度』の問題だ」(日経ビジネス)
日本の加工食品には栄養成分が表示されているのは、皆さんご存知かと思います。その内、栄養成分だけでなく、その「機能」が記載されている食品を総称して「保健機能食品」と呼びます。
「保健機能食品」には次の3種類あります。
・栄養機能食品
・機能性表示食品
・特定保健用食品(いわゆる”トクホ”)
消費者庁のウェブサイトで、それぞれ次のように定義されています
・栄養機能食品:特定の栄養成分の補給のために利用される食品で、栄養成分の機能を表示する食品
・機能性表示食品:事業者の責任において、機能性関与成分によって健康の維持及び増進に資する特定の保健の目的(疾病リスクの低減に係るものを除く。)が期待できる旨を科学的根拠に基づき表示した食品
・特定保健用食品:からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品
字面だけ見ると分かりにくいですが、要は、「保健機能食品」の内、体に良い効果をもたらすことまで謳っていないのが「栄養機能食品」で、謳っているのが「機能性表示食品」と「トクホ」です。
両者の違いは、「トクホ」は食品ごとに食品の有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得なければならない一方、「機能性表示食品」は国の審査は不要で、事業者自身の責任において有効性や安全性を確認するという点です。
「有効性や安全性の確認」というのは、医療用医薬品の常識からすると、臨床試験で当該食品の効果や安全性をプラセボと比較する必要がありますが、これらの食品がそこまでのレベルの試験をしているとはとても思えません。(そんなことしていたら、開発コストが莫大になるので)
そこを「事業者自身の責任において」行なっているというのは、ある意味「言ったもん勝ち」の世界になっているのでは?と思わせます。
世の中では国の審査が必要な「トクホ」は減り続け、不要な「機能性表示食品」は増え続けています。
■「機能性表示食品 市場規模1・2倍 健康意識高まり商品増」(日本農業新聞)
2015年に4000億円近くあった「トクホ」の市場は2023年では3000億円を切るまで減少。それに対し、「機能性表示食品」は200億円程度だったものが7000億円近くまで爆増中。
そんな状況で、では具体的にどのような商品が世の中に出ているでしょうか。件の小林製薬のウェブサイトを見てみましょう。
■「トクホ(特定保健用食品)・機能性表示食品一覧」(小林製薬)
見てみると、トクホは「サラシア100」と「キトサン明日葉青汁」の2種類しかないのに対し、機能性表示食品はやたらと沢山あります。
ここで問題だと思うのは、機能性表示食品の
・中高年の方の記憶を維持する「キオクリア」
・認知機能を維持する「健脳ヘルプ」
・高めの血圧を下げる「血圧ヘルプ」
等々のネーミングと機能の内容です。
そもそもこんな書き方・ネーミングであれば、「機能」というより「効能」ですよね…
そして機能の根拠について、例えば、「キオクリア」の詳細ページには
>>
イチョウ葉フラボノイド配糖体、イチョウ葉テルペンラクトンは、認知機能の一部である記憶力(日常生活で生じる行動や判断を記憶し、思い出す力)を維持する機能があることが報告されています
>>
とだけ書いてあって、その「報告」(論文)が何を指しているのか全く分かりません。
この状態では、「誇大広告」と言われても仕方がないと思います。
「規制」はなるべくない方が、民間として事業を進めやすいことは確かですが、それでも国民の健康にダイレクトに関係する話です。
「機能性表示食品」といえども、少なくとも、ネーミングに関してのガイドラインの整備や、有効性や安全性の根拠となるデータへの分かりやすいアクセスの義務化は行なうべきではないでしょうか。
※本稿執筆時点(2024年4月30日)で、筆者は小林製薬に関連する特筆すべき利益相反はありません。
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