異次元の常識
最近撮っている日本のハードコアパンクのドキュメンタリー映画の監督や、それに関する書籍を書く話になり、知り合いのフリーの編集者の人など、今まで出会うことがなかったような世界に住む人たちとの交流がある。
いわゆる「一般社会」というものの中で生きてきた人たち、と言えばよいのだろうか。
先日行なった横浜、広島、津山ツアーに同行したドキュメンタリー映画の監督が話していたことも、本を書くにあたり相談にのってもらった編集者の人が話していたことにも共通しているのが、どうやら俺たちが普通にしていることというものが普通ではないらしい。
ツアーで自分の家に何人もの人間を泊めてくれたり、その家の人間などにグッズをあげたりすることや、日本の一般的には全く知られていないバンドや音楽の人間たちが、全世界で繋がり合い協力してツアーをまわり、未知らぬ街を渡り歩き、見知らぬ人間の家に泊まり歩く等々。
全く知らない世界があり、そこの普通というものにはいつも驚かされる。
それはみんな同じなんだなと実感した。
違った世界の常識を受け入れて解釈できるかどうかによって、学べることが多いんじゃないだろうか。
俺からしてみれば、お金を銀行に預ける、財布を持ち歩く、腕時計をする、ネクタイを締めるというような些細なことから全く違う。
ネクタイは冠婚葬祭で締めることがあるぐらいで、上記の行為をすることはほとんどない。
先日行ったイギリスでは、ほとんどの人間が雨が降っても傘をささない。こちらも傘がないので、仕方なく同じようにしていたら馴れてしまい、日本に帰ってきても少々の雨なら傘をささないようになってしまった。
雨の日に傘もささず濡れている男は、財布を持っていない。腕時計もしていない。
ネクタイを締めて会社に勤めることも無い。
それによる収入で食えることはないが、音楽活動を何十年にも渡り続けている。
音楽活動のためには、仕事を休むことも厭わない。
本当のことだ。というか、日常的にまわりの人間たちはこうして生きている。
さすがに、仕事を休めない人間も多くなってきてはいるが、そういう人間たちは、仕事を終えてライブをやるのが当たり前となっている。
しかし、そういう世界を知らない人間からすると、こんな風に生きているということが、非常に興味深いようだ。
それが俺たちにとっては普通で当たり前。いわゆる俺たちの「常識」ってことなんだと思う。
きっちり仕事をして、ライブもやり、遊びもやり、ツアーにも行く人間だって俺のまわりにはたくさんいる。
誤解しないでもらいたいが、ネクタイを締めていたって、腕時計をしていたって、俺なんかよりカッコいい人間はたくさんいる。
常識ってなんだろう。
ひとつの常識に縛られて生きて行くと無理が起きる。
常識なんて常に変わって行くものだろう?
色んな世界があり、色んな常識があるということを少しでも知っていれば、仕事で過労死したり、仕事で追い込まれて自殺することなんかも、少しは減るんじゃないだろうか。
責任感が強く、仕事に誇りを持っているのは素晴らしいことだ。
でもさ、死んでしまうような辛さなら、辞めてしまえばいいんだよ。
仕事を辞めてしまった場合の心配ごとって何?
その先に待ち構えているものって死なんじゃないのか?
仕事を辞めると、死ぬより辛いことがあるのか?
本当に命を断つほど辛かったら逃げていいよ。
生きてなんぼだよ。
俺は最近、何とか常識の違いっていうものを楽しめるようになってきた。
人生の中に楽しいことがまた増えた。
今後、ちょっと知らない常識の世界にも飛び込んでみようと思っている。
新しい世界っていうのはワクワクするもんだ。初めてバンドをやったときも、初めてステージに立ったときも、初めてツアーに行ったときも、初めて海外でライブをやったときも。
見るも無惨に砕け散っても、その様はステージで観続けることができるだろう。
俺たちのライブを観る楽しみがまた増えるかもな(笑)。
でも、アントニオ猪木が言ってたよな。
「やる前から負けることを考えて闘うヤツがいるか!」
って。
さて、いったいどうなるかはわからんが、俺の全力は尽くすつもりだ。
「面白そうなことしかやらない」ってのも俺の常識なんだよね。
写真 イギリスのブリストルにて。1998年BURNING SPIRITS JAPAN TOURのときのCHAOS U.Kツインドラムのひとり、フィルと。指に同じ乾杯の刺青。
*このコラムで「混沌のランドマーク」という、以前インディーズインフォというサイトで掲載されていた連載は終了となります。
せっかくnoteを始めたので、このシリーズコラムは挨拶がわりとして掲載しました。
またnoteで新たに始めると思いますので、そのときはどのような形の文章になるかわかりませんが、よろしくおねがいいたします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
30年以上に渡るバンド活動とモヒカンの髪型も今年で35年目。音楽での表現以外に、日本や海外、様々な場所での演奏経験や、10代から社会をドロップアウトした視点の文章を雑誌やWEBで執筆中。興味があれば是非サポートを!