情況についての発言(4)――メディアと権力との距離

 新年早々、メディアと権力との距離が問われる事柄が相次いでメディアで報じられた。私はこの事態について非常に残念でならない。権力の監視どころか、権力に忖度して事実を捻じ曲げて、それを広汎に発信までしている事態が明るみになって、私は驚きを隠せなかった。これから今年に入って起こった事例をいくつか挙げ、それぞれの事例を私なりに検討しコメントを付す。


  1
 今年に入ってまず明らかになったのは、インターネットメディア「Choose Life Project」(以下ではCLPと省略する)の問題である。CLPはかつてTBSの報道番組に携わっていた佐治洋氏や工藤剛史氏らが共同代表を務める形で発足したインターネットメディアである。2016年頃にYouTube上で最初に制作された動画が投稿されたのであるが、恥ずかしながら私は今回の問題が浮上するまで、CLPの存在すら知らなかった。
 1月5日に、何気なくスマートフォンを眺めていると、何やら慌ただしい様子になっていると思い、しばらくすると、ジャーナリストの津田大介氏がCLPを告発する報道が流れたのである。津田氏、小島慶子氏(エッセイスト)、南彰氏(新聞記者)、望月衣塑子氏(新聞記者)、安田菜津紀氏(フォトジャーナリスト)の連名で公開された「Choose Life Projectのあり方に対する抗議」という文書では、「この度私たちの調査により、2020年春から約半年間にわたり大手広告会社や制作会社をはさむ形でCLPに立憲民主党から「番組制作費」として1000万円以上の資金提供があったことが確認されました」とある。何故に問題かと言うと、再び先の文書の内容に依るが、番組制作能力のある会社が、公党から制作費の提供を受けて番組制作を行い、その制作された番組を公党の名前で発信することは問題ないが、報道機関が特定政党から番組制作に関する資金を提供されることは、報道倫理に反するからである。その上、資金提供の事実を出演者、クラウドファンディングの協力者、マンスリーサポーター等々に知らせておらず、先の5氏はこれを「重大な背信行為」と見なしている。
 この文書では、立憲民主党から制作費を提供されていた時期についても触れている。この時期は専従スタッフを置いて本格的な稼働を始めた時期であり、かつ、「自由で公正な社会のために新しいメディアを作りたい」というタイトルでクラウドファンディングを開始し、3000万円を超える金額を集めていたからである。
 以上のことから、先の5氏は以下の問題点を提示している。

①「公共メティア」を標榜しつつも、実際には公党からの資金で番組制作を行っていた期間が存在すること
②その期間、公党との関係を秘匿し、一般視聴者から資金を募っていたこと

 先の5氏は、これまでにCLPの理念に共感し、出演者としてCLPに協力してきたが、報道機関としての倫理観という前提が崩れた以上、これまでのようにCLPに協力はできないと宣言し、その上で2020年春からの約半年間のお金の流れの詳細の公表、出演者・視聴者・サポーターへの謝罪、第三者による検証等々を求めた。先の5氏がどういう経緯で、出演を重ねるにつれ思い当たるようなことがあったのか、もしくは、関係者の一部からの密告があったのか等々、で知るに至ったかは、私にはよくわからない。また、この告発が5氏の自己保身なのではないかといった疑問も見られた。ただ、先の5氏はこれまでの発言等々で革新と一般的に言われる政党に近いと思われるところもあるように私には思われたので、私としては、この件で5氏への印象が変わったとまでは言わないが、メディアに携わる者として至極当たり前のことをしたと思うだけである。
 先の5氏の告発を受けて、翌6日に佐治氏名義でCLP側から告発に対する説明文が公表された。そこには、立憲民主党からの資金提供の経緯が書かれているが、この説明文によれば、CLP立ち上げ当初は市民サポーター型の「公共メディア」の方針や明確な理念がなく、方向性等々の試行錯誤が続き、活動のための資金集めをするなかで、立憲民主党の福山哲郎氏と話す機会を得て、フェイクニュースや不公正な差別が横行する状況に対抗するための新しいメディアという理念に福山氏が共感し、広告代理店や制作会社を通じての支援をいただいたという。その後、ネットメディアがテレビ業界のようなスポンサーがお金を出す形態とは異なるもので、本当の意味で「番組は視聴者と一緒に作るものだ」と気づかされ、2020年7月に法人化し、クラウドファンディングを開始し、立憲民主党に資金提供の終了をお願いし、終了したという。制作費としては約1500万円を受け取り、CLPとしての番組や動画コンテンツを制作し、説明文には、制作の内実も記されているが、詳しい内容は控える。
 明確な理念がなく、試行錯誤が続いていた当時(2016-19年)のCLPは、選挙時に投票を呼び掛ける動画を自費で制作していたとも記されているが、YouTube上のCLPのチャンネルを見るに、2016年7月4日に投稿された動画を初めに2019年7月20日までに投稿された動画のほぼすべてが、選挙の投票を呼び掛けるものであることがわかる。この3年間に投稿された動画の視聴回数は決して多いとは言い難い。出演者への報酬や制作に費やされる費用を考えると、制作スタッフへの負担も非常に大きいと思われる。以上のことから、ネットメディアを運営していくことがいかに難しいかがわかる。
 しかし、立憲民主党からの資金提供が始まったとされる2020年春頃から動画の投稿数が格段に増え始め、そのテーマも選挙の投票に限らず、多岐に渡るようになってくる。同年5月30日には各界の識者を集めた形のシンポジウムをライブ配信し始め、恐らくこのあたりから「番組は視聴者と一緒に作るものだ」と気づかされたと思われる。動画の視聴回数も立憲民主党からの資金提供を機に増え始める。試行錯誤の時期に視聴回数が1万回を超える動画は、ほとんどと言っていいほどなかったが、先の5月30日のライブ配信動画の視聴回数は4万回を超え、同年10月2日にライブ配信された「日本学術会議への人事介入に抗議する」と題する動画の視聴回数は遂に10万回を超えた。クラウドファンディングを開始し、立憲民主党からの資金提供を終えた後も、動画の投稿数や視聴回数の勢いは止まらない。この点は押さえるべきである。
 CLP側は先の説明文で、立憲民主党の福山哲郎氏(資金提供当時の役職は同党幹事長)から支援をいただいたと記していたが、福山氏も同日中にこれを認め、「自立までの間の番組制作一般を支援したもので、番組内容などに関与したものではない」とコメントした。CLP側の説明文でも、番組内容への要求・介入はなかったとあるが、YouTube上の資金提供されたと思われる期間に投稿された動画はそれほど多くなく、ライブ配信が多く、出演者の顔ぶれを見ても特定の政党の意に沿ったものとは言い難い。それどころか、立憲民主党からの資金提供後のことであるが、自民党や国民民主党や日本維新の会所属の国会議員までもが出演している。報道における中立性はおおむね守られていると言い得る。
 CLP側は3日後の1月9日に、「【CLPの今後の対応について】」と題する文章を公表したが、今後の対応として、「本件の問題点を総括することを目的として、外部の専門家(弁護士や研究者など)に報告書の作成を依頼する」とし、また、番組制作・配信について、当面の間休止するとした。
 そして、約1か月後の2月11日に、「現況報告と今後の対応について」と題する文章が公表された。それによると、諸事情により報告書の作成が遅れ、公表の時期が1か月から2か月程度後になるという。また、報告書の公表後に、サポーター、出演者、関係者の意見を伺い、活動の継続、解散等のこれからの対応について検討を重ねるとした。その後、CLP側からの文章の公表はない。動画の投稿ももちろんである。活字メディアで言えば、『週刊金曜日』誌が、大資本企業ではなく、定期購読料を支払う読者をスポンサーとし、企業や政官権力の圧力は効かないと謳っているが、CLPの確立した理念も、これと似たようなものである。私としては、CLPには今後サポーター、出演者、関係者等々に説明責任を果たし、視聴者やサポーターによって支えられる「公共メディア」としての役割を担っていただきたいものである。


  2
 次はCLPよりもはるかに巨大な「公共メディア」による不祥事について触れていきたい。昨年12月26日にNHK BS1で放送された「河瀨直美が見つめた東京五輪」という番組が、放送当初からSNSを中心に批判の声が上がった。この番組は、東京五輪公式記録映画の監督を務める河瀨直美氏を密着取材した大阪放送局制作のドキュメンタリーで、番組内での河瀨氏の「日本に国際社会からオリンピックを7年前に招致したのは私たちです」という発言や同スタッフで映画監督の島田角栄氏の「プロの反対側もいてるし ほんまに困って反対派もいてはるし 一概に反対派っていうひとくくりも なかなかね」という発言がSNS上で批判の的となった。島田氏は、五輪開催反対派には一部にお金を貰って反対デモに参加する人物もいるという意味のことを言ったと思われたということである。
 この番組が放送された同じ時期には、『相棒』にしろ、『日本沈没―希望のひと―』にしろ、テレビドラマにおけるステレオタイプな市民運動の演出までもが一部で批判された。デモはデモでも、抗議の対象によっては、その形式が異なり、参加する人々も様々である。言うまでもなく、様々と言っても島田氏のようなお金を貰っているか否かというような様々ではない。テレビドラマの演出でまだマシだったのは、ハゲタカ相手にメインキャスト総出のデモを仕掛けた『義母と娘のブルース』2022年謹賀新年スペシャルだけであった。
 話を再び先のドキュメンタリー番組に戻すが、その番組は同月30日に再放送された。その際にもSNS上で批判が相次いだ。しかし、年が明けて事態が急転する。今年の1月9日にNHKが、同番組内に不適切な字幕があることを認め、謝罪したのである。内容は次の通りである。
 島田氏がインタビューした中年男性を字幕で「五輪反対デモに参加しているという男性」、「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と紹介したのだが、視聴者から複数の問い合わせがあり、NHK側が、インタビューされた男性に再度取材を行った。すると、過去に五輪以外のデモに行き、金銭を受け取ったことがあり、五輪反対デモにも参加しようと考えていると、島田氏によるインタビューで発言したことがわかり、字幕の内容と異なっていた。また、男性が実際にデモに参加した事実も確認していなかったこともわかったという。そして、NHK側は、捏造の意図はなく、取材不足・コミュニケーション不足が原因とし、試写でのチェック不足も認めた。責任の所在はNHKにあり、河瀨氏、島田氏にはないとした。
 大規模な報道機関には、今に限らず、常に隠蔽や不祥事、捏造、権力関係による自主規制がつきものであることは心得ているほうであるが、私は2020年に連続テレビ小説『エール』が放送されて以来、NHKにより強い不信感を抱くようになった。人によっては、契機は様々であるが、私の場合は『エール』がより強い不信感の発端である。『エール』のどの点に疑問を持ったかは、ここではあえて触れないが、私の怒りはこのドキュメンタリー番組の字幕の件で一気に爆発した。
 当然、SNS上でも大荒れである。NHKがドキュメンタリー番組の件で不適切な字幕を認めてからというもの、五輪反対派を中心に抗議のコメントが氾濫し、NHKの捏造否定のコメントに疑問の声を投げ掛けたり、インタビューを受けた中年男性は一体何者だという声も出て、挙句に河瀨氏と島田氏の騒動後の動向にも疑惑の眼が向けられた。つまり、河瀨氏と島田氏は当初から捏造に加担していたのではないか、と。実際に放送された番組の内容からそのように捉えられた面があるように思われる。
 同月24日に再び動きがあった。NHK側が再び不適切な字幕の件で謝罪したのである。島田氏がNHK側に抗議し、その内容というのが、字幕の内容について、放送前にNHK側から島田氏に事前確認がなかったにもかかわらず、同月19日の定例記者会見では、島田氏から確認を得ているかのように経緯が説明されていたというものである。NHKは、同月22日に島田氏に直接謝罪したことを明らかにし、字幕の件で「BS1スペシャル調査チーム」を設置して再発防止に努めるとした。
 五輪開催に反対してきた市民団体も動き、NHKに対して、番組制作の経緯を明らかにして、開催反対運動に参加した人々への謝罪を求める抗議文を提出するなど、NHKへの不信感が日に日に高まるばかりであった。再び動きがあったのは、2月10日のことである。NHKが記者会見を開き、制作を担当した大阪放送局のディレクターとチーフプロデューサーを停職1か月、専任部長を出勤停止14日とするなど、計6名の懲戒処分を発表した。また、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、同日に不適切な字幕の件に放送倫理違反の疑いがあるとし、審議入りを決定した。
 NHKは同日、「「BS1スペシャル」報道に関する調査報告書」を公表した。私もこの報告書を読んでみたが、ところどころにもやもやとしたところがあるように思われた。ディレクター、チーフプロデューサー、専任部長間のコミュニケーション不足や放送ガイドラインを逸脱した杜撰な対応、五輪競技映像の利用費用の関係で年内で完成させて放送しなければならなかったといった事情はいいとしても、中年男性へのインタビューや映画スタッフによる「プロの反対側」の意味についての説明はやはりもやもやとしている。
 映画スタッフが例の中年男性に初めて会ったのは、五輪開会式が開かれた7月23日であると、報告書にはある。それは、都内取材中のことで、通りかかった中年男性から映画スタッフに声を掛けてきたという。映画スタッフはその場で後日インタビューする約束を取りつけ、8月7日に映画スタッフとディレクターの二人で都内で中年男性と待ち合わせた後、近くの公園に移動してロケを行い、映画スタッフが中年男性を撮影し、その様子をディレクターが撮影する形式で行ったとある。つまりは、デイレクターが撮った映像に例の不適切な字幕が施されたという訳である。その時の様子は次の通りである。

 放送された当該シーンの男性のインタビューは、前述の8月7日にディレクターが撮影したものです。カメラが回っている際のインタビューで、男性は、放送された「デモは全部上の人がやるから、書いたやつを言ったあとに言うだけ」「それは予定表をもらっているから、それを見て行くだけ」という話以外に、▽ご飯代ぐらいのお金をもらって、いろいろなデモに参加している、▽五輪反対デモは行かない、▽コロナが増えるから自分としては五輪はやめた方がいいと思う、という主旨の内容を話しており、その音声は撮影素材に残されています。
 ディレクターは、記憶があいまいだとしながらも、上記のインタビュー終了後、カメラを回していない状況で、男性から、▽デモに参加することで2000円から4000円をもらうことがある、▽五輪反対のデモに参加する可能性はあるという話を聞いたと話しています。男性に追加でこの話を聞こうとした理由について、ディレクターは、男性が五輪以外のデモには何度も参加したと話していたうえ、五輪の開催に反対の立場を示していたことから、公園での撮影を終えたあと、改めて男性に五輪反対デモについて尋ねようと思ったと話しています。

 ついでに言っておけば、8月7日はオリンピックの閉会式の前日である。後でパラリンピックが控えていたとはいえ、8月7日までに中年男性は五輪反対デモに参加していないのである。インタビューが閉会式前日に行われたこと自体、捏造が疑われるような案件であるが、調査チームによる中年男性へのヒアリングの内容も引いておく。

 一方、男性は、調査チームのヒアリングに答え、ディレクターに対して、▽デモに参加することでもらえるのは2000円程度、▽五輪反対のデモに行ってみたい、という話をしたと思うと証言しています。そのうえで、男性は、8月7日以降も、五輪反対デモには参加していないと証言しました。

 つまりは、8月7日以前も以後も、中年男性は五輪反対デモに参加していないのである。その事実が、調査チームが設置された1月24日以降に判明したのである。ディレクターは、中年男性が語った五輪関連の話に引き摺られていったと言う他はないのだが、それにしても、映画スタッフは自ら声を掛けてきた中年男性の何が気がかりだったのだろうか? いずれの引用文を見ても、参加するとお金が貰えるデモが、五輪なのか五輪以外なのかがはっきりしない。調査チームはその辺を調査しているのだろうか? デモと言えど、それは左右に様々にありうるが、この調査結果に五輪反対デモの団体は納得するのだろうか? なお、この報告書には映画スタッフの「プロの反対側」という発言についての説明も記されているが、それは次の通りである。

 なお、この男性をめぐって、NHKには、映画スタッフが番組の中でNHKのインタビューに対して答えた「プロの反対側」という表現が、男性のことをさしているのではないかという指摘が寄せられています。しかし、映画スタッフは、調査チームのヒアリングに対し、「プロの反対側」とは、強い思いをもってデモに参加している人たちのことであり、当該シーンの男性のことは全く念頭になかったと否定しています。放送で使われなかった映画スタッフのインタビュー素材にも、当該シーンの男性と結び付けるような発言はありません。

 「プロの反対側」が「強い思いをもってデモに参加している人たち」を指し示すのであれば、その後に表示されている「ほんまに困って反対派」という字幕にはどのような意味が込められているのか? 普通であれば、「ほんまに困って反対派」のほうが先の意味を指し示すと考えるはずであり、「プロの反対側」と言うと、まずもって金銭のやりとりを連想するはずである。映画スタッフが例の中年男性のことを念頭に置いていなかったとしても、「プロの反対側」と聞けば、真っ先に金銭のやりとりを連想する人が多いことは言うまでもない。金銭のやりとりを連想させる言葉として定着している「プロの反対側」という言葉が、映画スタッフがどのような意味を込めようと、全国のお茶の間に拡散されたのである。参加すると金銭のやりとりが生じるデモが、五輪なのか五輪以外なのかがはっきりしない記述といい、NHKは五輪反対デモの団体にも謝罪しろと言いたい。
 この報告書には、編集作業における試写での字幕に関する一連のやりとりも記されている。プロデューサー試写が3回行われ、字幕の修正も3回行われた。字幕の変遷は次の通りである。①「かつてホームレスだった男性」、「デモにアルバイトで参加していると打ち明けた」→②「五輪反対デモの参加者」、「実はアルバイトだと打ち明けた」→③「五輪反対デモに参加しているという男性」、「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」
 なぜ、「かつてホームレスだった男性」が「五輪反対デモの参加者」に修正されたのかと思われるが、チーフプロデューサーがディレクターに字幕のデモが五輪反対デモを指すのかと質問したことが契機とある。ディレクターは、カメラを回していない状況で、男性が五輪反対デモに行く可能性はあると話していたと回答。チーフプロデューサーはディレクターに五輪反対デモを指すのかという疑問点を確認するよう指示したが、具体的な確認の仕方までは伝えなかったようである。ディレクターは、中年男性本人に確認したり、デモに関する裏付けを取るための追加取材をしなかったとある。
 最初の修正の後、2回目のプロデューサー試写において、チーフプロデューサーはディレクターに確認できたのかと質問し、確認できていないことを認識したまま試写に臨んだディレクターは大丈夫と回答。チーフプロデューサーはこれで疑問点が解消されたと思い込む。ただ、ディレクターは2回目の試写の前に、「行く可能性がある」という意味で、大丈夫と伝えたと証言している。その後、12月12日に3回目のプロデューサー試写が行われ、翌13日に専任部長が参加する「統括試写」が行われたが、専任部長は字幕の内容を巡っての事実関係の裏付けについての説明を求めることをしなかった。
 最終的にコメントを完成させる段階で、台本のコメントを見た専任部長は、中年男性がお金を貰っていることを確認したいと考え、「アルバイトという表現で大丈夫か」と質問した。チーフプロデューサーは、「アルバイト」という言葉に、仕事で定期的にお金を貰うイメージがあると思い、ディレクターとも相談の上、「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と変更した。また、ディレクターは、「五輪反対デモに参加しているという男性」という字幕について、「参加した」と断定しなければ問題ないという誤った思い込みを持ち続けていたという。そして、チーフプロデューサーも専任部長も、それ以上に事実関係を確認せず、字幕も修正されないまま放送に至ったという。
 チーフプロデューサーは、12月に放送する別の番組も担当していたとあるが、「働き方改革」ゆえに連続テレビ小説の放送日を週5日に変更したほどのNHKは部下に一体どんな指示を与えているのか? こんな報告書を誰が納得するのか? 五輪反対デモにお金のやりとりが生じていること自体、これが本当であれば、一ドキュメンタリー番組が取り上げるよりも真っ先にニュース番組で速報で報じられるほどの大スキャンダルである。その上、事実関係をろくに確かめてもいない。
 NHKと言えば、新自由主義的政党支持の人々によってだいぶ攻撃される傾向がかねてよりあったが、ここ近年は報じるべきニュースが報じられなかったり、ドキュメンタリー番組の内容の偏向等々によって、幅広く支持や信用を失ってしまっている。最近では、某ディスカウントストアでいわゆる「NHK映らないテレビ」が開発され商品化され話題になっているようだ。今回の字幕問題では、NHK側の説明が二転三転しており、大不祥事とでも言うべきものだが、ちょうど冬季五輪が北京で開催されていたこともあってか、民放各社の報道番組はどこもこの件を報じなかった。もちろん、私の知る範囲ではあるが。広汎に受信料への不満も広がり、スクランブル放送や民営化の話も聞かれるようになっているが、私としては公共放送としての役割を再確認し、信用を回復して欲しい。スクランブル放送になったり、民営化された場合、私は今以上にNHKを観なくなると思う。今はとにかく、BPO側の見解を待つばかりである。


  3
 今年1月24日、新聞各社はこぞって立憲民主党の菅直人元首相の発言と橋下徹氏の反論を報じたのであるが、その内容は、菅氏が橋下氏に言及した上で、維新に関して、「ヒトラーを思い起こす」と菅氏自身のツイッターに投稿し、それに対して橋下氏が、「ヒトラーへ重ね合わす批判は国際的にはご法度」と反論したというものである。私が読んだのは『東京新聞』のネット記事であるが、他の各社の内容もほぼ同様と聞いており、テレビを見てもどこも似たり寄ったりであった。これでは菅氏にのみ非があるように見えるが、実際に両氏の当該ツイートの内容すべてを引用しておく。まずは菅氏から。

橋下氏をはじめ弁舌は極めて歯切れが良く、直接話を聞くと非常に魅力的。しかし「維新」という政党が新自由主義的政党なのか、それとも福祉国家的政党なのか、基本的政治スタンスは曖昧。主張は別として弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす。
2022年01月21日 11:45

 次に橋下氏のツイートの内容である。

ヒットラーへ重ね合わす批判は国際的にはご法度。こういうことを平気でやるのは京都大学の藤井聡氏のような非常識な学者。まあ今回は弁舌の巧みさということでお褒めの言葉と受けって(ママ)おくが。それよりも強い野党を本気で作る気があるなら、大阪では自民に圧勝している維新政治を謙虚に研究すべき。
2022年01月23日 12:57

 私は別に菅氏を擁護する者ではないし、私が脱原発を主張しようが、それは菅氏の主張を支持しているということにはならない。なぜ私がこのやりとりを気にするのかと言えば、新聞各紙に限らず、民放各局をも含め政治的中立性が問われているからである。菅氏、橋下氏の当該ツイートを見較べたが、橋下氏のほうは、「ヒットラーへ重ね合わす批判は国際的にはご法度」に続いて、「こういうことを平気でやるのは京都大学の藤井聡氏のような非常識な学者」とある。その上、橋下氏は、「弁舌の巧みさ」という点で、菅氏のツイート内容を「お褒めの言葉」として受け止めているのである。メディアはこの点まで触れていないのである。橋下氏は、ヒットラーへ重ね合わすのは、「京都大学の藤井聡氏のような非常識な学者」がやることだと言っている訳であるが、橋下氏はかつて藤井氏について次のようなツイートを投稿している。

京大のちょび髭藤井ね。こいつは学者じゃない。結論先にありきで橋下府政前後のトレンド分析や大阪都構想と現状の府市との比較分析をせずにとにかく反橋下・反維新だけ。自分が一番賢いと勘違い。僕のことをヒトラー呼ばわりしておいてお前の顔の方が安もんのヒトラーだろ!お前の家には鏡がないのか!
2017年02月18日 11:57

 肯定的であれ、否定的であれ、菅氏に限らず橋下氏をヒットラーへ重ね合わす人物は、これまでに数名いたが、藤井氏もそのうちの一人であろうが、橋下氏の場合は、藤井氏の容姿への揶揄なのである。一部SNS上で、菅氏のヒットラーツイートがヘイトスピーチに該当するのか否か、または侮辱罪に該当するのかといった不毛な議論が起こったが、橋下氏のツイート内容のほうがより侮辱罪に該当するに決まっている。にもかかわらず、新聞、テレビ等々では菅氏ばかりが非難の対象になっているのである。
 昨年の衆議院選挙では、日本維新の会の躍進が話題となったが、他方で、報道等々で日本維新の会の関係者の姿ばかりが目立ち、この点において、政治的中立性が議論の的となっている。とりわけ地元である関西圏では顕著とも聞く。毎日放送で今年元日に放送されたトークバラエティー番組で日本維新の会の関係者ばかりが出演してだいぶ問題にもなった。関西圏に限らず、関東圏のテレビ番組にも橋下氏が頻繁に出演しているが、橋下氏が党の関係者なのか否か、非常に曖昧である。党の法律顧問のようであるが、今に限らず、以前から特定の政党に関係があると思われた人物がテレビ番組からの降板を余儀なくされたという例をよく聞く。橋下氏の場合はどうなのだろうか。

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