三橋貴明「グローバリストに操られるわが国の農政」(『維新と興亜』第7号、令和3年6月)
農水官僚を黙らせた奥原正明事務次官
── 菅総理は農業分野の規制改革をさらに進めると述べています。
三橋 第二次安倍政権以降の農業政策は、一貫してグローバリストの意向に沿ったものです。
二〇一四年五月、在日米国商工会議所は「JAグループは、日本の農業を強化し、かつ日本の経済成長に資する形で組織改革を行うべきである」と要求してきました。この要求を受けて、農協改革をはじめとする一連の「改革」を主導したのが、当時官房長官だった菅さんです。現在も菅さんは、総理として農産物の輸出拡大を推進しようとしています。
安倍政権は「農業競争力の強化」という響きの良いスローガンを掲げましたが、その実態はグローバリストの都合のいいように日本の農業を変えることです。
農業は食料安全保障の要であり、農政の目的は国民を飢えさせないことにあります。それを理解している農水官僚には、グローバリストの要求に対する根強い抵抗がありました。そこで、農水官僚を黙らせるために菅官房長官が事務次官に起用したのが、経営局長を務めていた奥原正明さんです。奥原さんは「農業が産業化し、農水省が要らなくなることが理想だ」と公言していた人物です。彼は「農水官僚の皮をかぶった経産官僚」とも揶揄されています。
二〇一五年には奥原さんと同期の本川一善さんが事務次官に就任しました。慣例に従えば、ここで奥原さんは退官するはずでした。ところが、本川さんは一年も経たずに退任させられ、その後任として二〇一六年六月に奥原さんが次官に就いたのです。菅官房長官が内閣人事局の権力を振りかざして介入したと言われています。
奥原さんは抵抗する官僚を左遷し、グローバリストの要求に沿った改革を断行していきました。日本の農業を破壊した農林水産事務次官として彼の名前は歴史に残るでしょう。菅官房長官、奥原次官とともに、農業破壊政策を推進したのが、規制改革推進会議の農業ワーキンググループ座長を務めていた金丸恭文さんです。
菅、奥原、金丸の三名が、在日米国商工会議所や竹中平蔵さん、元ローソン社長の新浪剛史さんらと組み、日本の農業を破壊する「構造改革」を強行してきたということです。奥原さんは事務次官を二年も務め、退任後も顧問として「院政」を敷き、漁業分野の規制改革を主導しました。
── 安倍政権は農協改革を強行しました。
三橋 農業をビジネスとして見るグローバリストたちにとって、農協は邪魔な存在だったのです。安倍政権が進めた農協改革によって、JA全中の指導・監査の撤廃と一般社団法人化、全国農業協同組合連合会(全農)の株式会社化が実現しました。TPPに反対していた農協の中枢であったJA全中が狙われたということでしょう。
一方、全農の株式会社化は、アメリカの穀物メジャーの要求によるものだったと見られます。全農の子会社「全農グレイン」は、非遺伝子組み換え農産物が生産地から消費地に運ばれるまでの間、組み換え農産物と混じらないように管理しています。そのため、世界最大の穀物メジャー「カーギル」もそれに倣わざるを得ません。カーギルには、全農グレインの存在は「利益最大化の障壁」と映っていました。そこで、カーギルは全農を株式会社化して買収しようと狙ったのだと見られています。
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