カナダ、アイルランド、イギリス、アメリカ合作映画「ルーム」

第14回 2023.5.21 会員推奨課題映画
2016年日本公開「ルーム」(カナダ、アイルランド、イギリス、アメリカ制作)        2023,4,19記  石野夏実
 
実際の誘拐監禁事件をもとに書かれた小説を原作にしている。もちろん怖い映画であったが、理不尽で悲しい映画でもあった。
ラストの前を向き歩き出す親子ふたりの後ろ姿は、過去からの決別だ。
ばあばの「人は皆、助け合って強くなる」がこの映画のテーマだろう。
 
途切れず通して観ようと思い観始めたところ、1/3ほどのところで用事が入りいったん終了。3日後にやっと観終わった。配信は便利であるが視聴者主導のため、臨場感に欠ける。この手の映画は一気に見るべき映画だと思う。
 
7年間の止まった時間の中で17歳だった女子高生は24歳の母親になっていた。監禁犯との間にできた息子ジャックが5歳の誕生日を迎える日から映画は始まっていく~「ママ、5歳になった」
 
その子の髪が長いので、最初は女の子かと思った。
とても美しく可愛い顔に驚嘆した。
ママであるジョイは納屋に拉致監禁され犯され続け、その場所で男の子を生んだ。
生まれたその子の世界はひと部屋だけの物置が全てだ。
下界との接点は天窓から見える小さな空だけ。
普通の窓はなく、ドアは暗証番号でしか開かない。
四方を壁で覆われた狭くて汚い小屋。辛うじて観られるTVだけが2次元世界のすべて。
ふたりの現実の世界は遮断された部屋=ルームだけだった。
 
ママ=ジョイの容姿は、時間が止まっている分、幼さが残っている。
ジャックがいるから生きていられる彼女は健気だ。
息子に知識や理屈も言葉できちんと教え、理解出来るように話す。
モンテクリスト伯のお話も歌も歌って聞かせる。
ジャックは本も読めれば、絵も描ける。思考力も養われていてとても賢い。
 
5歳という設定のジャックに扮した、実際は8歳であったとのジェイコブ・トレンブレイは、まさに天才子役であった。
母親ジョイ役のブリ―・ラーソンは、この映画でアカデミー主演女優賞を受賞。(※因みに同年の主演男優賞は「レヴェナント蘇りし者」でディカプリオが受賞)
 
ジョイは、ジャックの顔中に熱湯で茹でたタオルをあてがい、真っ赤に火照った様子を犯人であるオールド・ニックに見せ、病院に連れて行かせようとしたが失敗した。
翌日、解熱剤を持ってきたニックにジャックが死んだことにして、絨毯でジャックをぐるぐる巻きにし埋葬するよう仕向けた。
ジャックを外へ連れ出す作戦は成功したが、おそらく自分の命と引き換えになることも考えての決断だった。
硬直状態を保ちニックにバレずにすんだジャックは、ニックに抱えられ赤いトラックに乗せられた。
ママ=ジョイから細かい指示を受けていたジャックは、荷台からの脱出に成功し犬を連れた男性に助けられた。
 
犯人はあっけなく逮捕され、どんでん返しも復讐もなかった。
これはスリラー映画でもミステリー映画でもなかった。

その後の母子とジョイの両親(ばあばとじいじ※監禁中に離婚していた)+ばあばの再婚相手との対面
検査等入院の病院から帰り、かってジョイが暮らした家の中での描写に切り替わる。
ジョイの部屋の机もベッドも行方不明になった時のまま、ジョイとジャックを迎えた。
離婚した両親のうち父親は遠方に住むようになり、ジョイが生きて帰ったことを知り飛んできたのだった。
しかし父親=じいじは、誘拐犯の子であるジャックを受け入れることができないと言い帰って行った。
 
ジャックを否定することは娘を否定することであると思う。
娘が恐ろしい極限状況の中で7年もの間壊れずに生存してきたことは奇蹟であり、無事を喜ぶべきだ。
5歳の息子を守りながら必死に生きてきた娘を、今度は世間から守るのが親の愛情ではないだろうか。
ジャックは誘拐犯の息子ではなく、父親は存在する必要はなく、自分だけの息子であるとの思いで生きてきたジョイにとって、このことが理解されないことは、一番悲しいことであった。
 
誘拐犯が捕まってから以降の場面に、この映画は時間をかけている。
その後の母子の様子や家族との繋がりを見せて、はじめてこの物語は終わることができる。
 
ラストの現場検証で母子が訪れた物置は、あまりにも小さな小屋だった。
初めてそのことを知ったジャックは「クローゼットも洗面台も(触りながら)天窓もサヨウナラ」 「ママも部屋にサヨウナラして」と。

二度とあの世界の方が良かったと思うことはないだろう。
庭に出たら雪が降ってきた。
手をつないで歩くふたりの後ろ姿が遠ざかりながら終わる。
 
プロローグが蘇る~おそらくママが何度も何度もジャックに言い聞かせていたはずのジャックの誕生物語だ~

「昔々、僕が下りて来る前、ママは毎日泣いてTVばかり見てゾンビになった。そして、天国の僕が天窓から下りてきて、ママを中からドカンドカンて蹴ったんだ。僕が目をパッチリ開けて絨毯に出てきたら、ママがへその緒を切って『はじめましてジャック』って」


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