是枝裕和監督「真実」日仏共同制作作品(2019年10月公開)


             2019年11月4日 記   石野夏実
             2024年11月16日追記
 
昨年(2018年)公開された是枝監督の「万引き家族」は、数多くの国内外の映画賞を受賞しカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)をも受賞。
氏は、過去の数々の作品も多くの賞を受賞し21世紀の日本映画を代表する監督となっている。
その是枝監督の最新作が、日仏共同制作作品「真実」である。

この映画は、昨年秋にパリで撮影され先月公開された。撮影期間は10月4日クランクインで10週間。しかも1日8時間以上働いてはいけないというフランスの制約のもと完成した。

主演は撮影当時75歳のカトリーヌ・ドヌーヴである。
映画の主人公の設定も、主役の大女優を演じるドヌーヴ自身もフランスの国民的大女優である。
この主人公「ファビエンヌ」が書いた自伝本が「真実」という題名なのである。
この映画は、今までの是枝作品と違って少々複雑である。予備知識がある程度ないと一度観ただけではなかなか内容を把握できない。
劇中劇というか映画中映画というかケンリュウのSF小説が原作の「母の記憶に」(7年に一度会いにくる不老の母と年を重ね老いていく娘)が映画化され、その映画にファビエンヌが出演し、撮影が同時進行中であるという設定のため、共演者との絡みだけでなく映画の撮影現場も頻繁に出てくるので複雑なのだ。
テーマは、もちろん是枝監督のライフワーク「家族とは何か」であるが、母と母を憎んでいる娘との「真実」の違いがストレートな会話によって明らかにされていく。
娘の思い込みと母親の実際にとった行動のわだかまりは、本音でぶつかり合うことによってやっと溶けていく。
よい母になるより女優として生きる道を選んでいると自信をもって言い放っているファビエンヌであるが、実の娘を愛していないはずがない。
真実を話すことによって一人娘リュミールとの確執が解消され、娘を抱くファビエンヌの愛情は本物だ。
しかし彼女は根っからの女優。そしてリュミールは今ではニューヨークでTV俳優の夫と8歳?の一人娘との三人家族で暮らす脚本家だ。

孫にとっては魔女のような存在の祖母であるファビエンヌに、自分が女優になるまで生きていて欲しいと伝えに行く愛孫の言葉は、愛娘リュミールによって書かれた脚本だった。
女親と娘の関係は、私も娘二人を持つ母として、二人にさみしい思いをさせたであろう忙しく働いていた時期を思い返すと複雑な心境である。
大切なことは、本音でぶつかり合うこと。そこから初めてお互いが理解できるようになる。
 
晩秋のパリの14区。大女優が住む紅葉、落葉、常緑樹が美しい一軒家は、この映画の象徴である。
娘一家の数日の滞在と共に現役女優として流れてゆく時間。
堂々と、わがままいっぱいにチャーミングに自分を貫いて、これからも生涯女優を続けていくであろう主演のカトリーヌ・ドヌーブに乾杯!
 
追記:先月カトリーヌ・ドヌーヴは81歳になった。実は私は誕生日が一緒なのである。まだまだ元気で新作映画に出ているという。血液型を知りたくて調べたが不詳であった。


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