アメリカ映画「ムーンライト」2016
第12回 2022.11.20当番 バリー・ジェンキンス監督「ムーンライト」2016年作品感想
8.30記 石野夏実
私が大好きな映画「ラ・ラ・ランド」がアカデミー賞の作品賞を獲れなかったのは、実はこの「ムーンライト」が作品賞を受賞したからだった、ということをあまり知らなかった。
話題作を観るのは好きなほうではあるが、この作品は何故だか観ることもなく今日まで来ていた。そして内容もほとんど知らなかった。
ところがである。。。観始めて一気にこの映画の世界に入り込んだ。
最初のカメラの動きがサークルショットで、被写体の周りをぐるぐる回り、すぐに観客をトリコにする。
もちろん、このような撮り方の映画は、過去にいくつもあるのだろうけれど、ダラダラした映画じゃあないよという告知のようなものだと感じた。
この映画ができるまでの拾い ↓ Wiki
2016年、バリー・ジェンキンスは、(原案者)タレル・アルバン・マクレイニーと脚本を共著し、8年ぶりの新作映画『ムーンライト』を監督した。映画はマクレイニー・ジェンキンス双方の出身地だったマイアミのリバティ・シティで撮影され、2016年9月にテルライド映画祭で初上映されると、批評家に絶賛され、様々な映画賞を受賞した。『ニューヨークタイムズ』のA、O、スコットは「ムーンライト」は黒人の身体の気高さ、美しさ、脆さ、そして黒人の生命の存在・肉体的問題を強調している」と述べた。『バラエティ』誌では、「 (サウスフロリダでの幼少期を活き活きと描いたバリー・ジェンキンスの描写は、彼の人生における3つのステージを再考するもので、現在のアフリカ系アメリカ人の経験について豊かな洞察を提供してくる」と書かれた。『アトランティック』誌のデイヴィッド・シムズは、「他の偉大な映画と同じように、『ムーンライト』は明確かつ徹底的だ。アイデンティティに関する物語だ——登場人物について考えたことを、観客によく考えるようにも求める、聡明で骨の折れる仕事でもある」と述べた。
作品は多くの映画賞を受賞し、その中にはゴールデングローブ賞 映画部門 作品賞 (ドラマ部門)や、アカデミー作品賞も含まれている。ジェンキンス・マクレイニーはアカデミー脚色賞も受賞したほか、第89回アカデミー賞ではアカデミー監督賞を含めた8部門にノミネートを受けた。
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あらすじ
この映画はシャロンというアフリカ系黒人の ①<リトル>と呼ばれていた少年期 ②<シャロン>本名でのティーンエジャー期 ③<ブラック>と呼ばれる大人になったシャロン=の3部作で成っている。インパクトが強いこの映画のポスターは、3つの時期の顔の合成だ。また、それぞれの部の会話の中で、心に響く言葉が出てくる。
舞台はマイアミの黒人たちが多く住むリバティシティと呼ばれる危険な地域。
①大人しく内気な少年シャロンは、いつものように下校時にいじめっ子たちに追いかけられ、一目散に廃屋に逃げ込んだ。その様子を見ていたファンと呼ばれる麻薬のディーラー(仲買人)は、シャロンを恋人テレサと暮らす家に連れて帰り食事をさせ話をしようとするが、名前しか言わない。ひと晩泊めて自宅に送り、母親のポーラに引き渡す。シャロンのことをファンはとてもかわいがりシャロンも徐々に心を開いていく。マイアミだからビーチが近い。ファンはシャロンを海に連れて行き泳ぎ方を教える。ファンに抱えられたシャロンはまるで赤ちゃんのようだ。ファンはシャロンに言う「自分の将来のことは自分で決めろ。他の誰にも決めさせるな」と。学校でひとりだけシャロンを気にかけ話しかけてくれる友達がいる。名前はケヴィンだ。ケヴィンは、体はそれほど大きくないが運動能力もあり喧嘩も強そうだ。
②高校生になったシャロン。まだいじめられている。母親は麻薬中毒がひどくなっている。居場所のないシャロンは、ファンが死んでしまったテレサの家へ行き優しく迎えられる。※何故ファンが死んだのかは、映画の中では語られていない。執拗にシャロンをいじめるレゲエ髪の同級生がいる。学校帰りにまたいじめられ電車に乗ってビーチに行く。砂浜にいるとケヴィンが現れる。夜の海を見ながらのふたりの会話。
ケヴィンは目をつむり言う「潮風が気持ちいい。気持ちよくて泣きたくなるだろ?」
シャロン「泣くの?」
ケヴィン「いや泣きたいだけ。おまえは何に泣く?」
シャロン「泣きすぎて自分が水滴になりそうだ」
ケヴィン「海に飛び込みたいか?この辺の連中は海でかなしみを紛らす」
ふたりの心は通じ合いキスをする・・・
翌日、レゲエ髪のいじめ同級生がケヴィンにシャロンを殴るよう言い渡す。
ケヴィンのパンチはシャロンを倒す。起き上がらなけらばすぐ終わるから起きるなというケヴィンの言葉がシャロンには届かない。シャロンは殴られても起き上がる。ボコボコだ。
シャロンは決意した。翌日学校でレゲエ髪を椅子でぶちのめし警察に逮捕された。
③大人になったシャロンは「ブラック」と呼ばれている。大好きだったファンと同じような車に乗り、頭にはピチッとした黒布の海賊巻き、仕事も麻薬のディーラだ。
体を鍛えグリルの金歯を装着し強さを誇張している。
ある日、ケヴィンから電話が入る。テレサから電話番号を聞いてかけていると。故郷を出てかなりの年月がたっていた。
先ず施設で暮らす母に会いに行き和解する。
その足でダイナーで料理人(オーナー?店長?)として働いているケヴィンに会う。
あの弱々しかったシャロンが頑強な大男になっていた。
シャロンに似た客がかけたジュークボックスの音楽で、シャロンを思い出したと言って電話してきたケヴィン。
その曲名はバーバラ・ルイスの「ハロー・ストレンジャー」だ。
※歌詞=ハロ~懐かしい恋人 嬉しいわ帰ってきたのね 何年ぶりかしら 最後に会ったのは 遥か遠い昔 とても嬉しい あなたが顔を見せてくれて あの頃が懐かしい~♪
ケヴィン手作りのお薦めの特製(キャビアてんこ盛り)を食べ、ワインを何本も空けた。閉店の戸締りをしてバスで帰るというケヴィンを車で家まで送っていき、家に入り最後はふたりで仲良く寄り添い終わる。
ラストの絵は、少年時代の幼いシャロンがブルーの月明りの海辺でこちらを振り返る姿だ。
登場人物が全員、黒人だった。一番印象に残るのは少年時代のシャロンだ。悲しみに湛えながらも冷静さも併せ持つ凝視する大きな目と、何も発しない太い唇。
ファン役のマハーシャラ・アリはこの作品でアカデミー賞助演男優賞を獲得。2年後にもういちど「グリーンブック」で同賞を授賞している。
今一番注目されている俳優だ。とてもいい目をしている。
ブラックと呼ばれる大人になってからのシャロンを演じたトレヴァンテ・ローズも目がいい。
母親ポーラ役のナオミ・ハリスも、テレサ役のジャネール・モネイもよかった。
誰が誰を愛しても私は驚かないし、個人の意思を尊重する。
恋愛だけでなく男とか女とかに分ける必要がない仕事も事柄も多い。この映画をひとりでも多くの人が観るといいと思う。麻薬を売らなければ生活できない人が減るように、麻薬の中毒になる人が減るようにと願わずにはいられない。シェフになってちゃんと生活しているケヴィンは偉いと思った。