ウォン・カーウァイの香港映画⑩「若き仕立て屋の恋」(2004年)ロングバージョン
2023年8月 石野夏実
香港、アメリカ、イタリア合作の3監督オムニバス・ドラマ映画を中編ロングバージョンに仕上げたものである。
高級娼婦と若い仕立て屋の恋の話であるが、主演はコン・リーとチャン・チェン。
高級娼婦(コン・リー)はチャイナドレスを仕立て屋に頼んでいる。
ある日見習いの若い男(チャン・チェン)が娼婦の部屋を訪ねた。
これが最初の出会いである。
娼婦なのでエロい。若い男は無口で顔にも出さず、ひたすら娼婦を慕い続けるようになるが、本人たち以外は誰も気づかない。
娼婦は徐々に病(肺病)がひどくなるが、生活のためには客を選んではいられない。
堕ちてゆくコン・リー。
今回のチャン・チェンは「ブエノスアイレス」の明るい若者ではなく、ひたすら無口で針を動かしアイロンをかける仕立て職人だ。
全ては彼女のために。
撮影の色遣いやチャイナドレス、音楽、やはり「花様年華」を観たあとでは二番煎じに思えてしまった。
同じ手は、何度も使えない。もちろんストーリーは全く別の話であるが。
この「若き仕立て屋の恋」はミケランジェロ・アントニオーニ、スティーブン・ソダ―バーグとの3監督競合のオムニバス映画で2002年完成とのことだったので原型は「2046」よりも先にできていたと思う。
この映画と「2046」を最後に香港映画で世界に一大旋風を巻き起こしたウォン・カーウァイの香港拘り芸術映画はいったん終わったのであろう。
2007年にアメリカに出かけノラ・ジョーンズとジュード・ロウの「マイ・ブルーベリー・ナイツ」を撮り、2013年に構想17年、撮影期間3年の時代劇映画「グランド・マスター」を公開した。
その後プロデューサーとしては何本も関わった映画は多いが,ウォン監督名では、「グランド・マスター」が最後である。