日本映画「恋妻家宮本」感想

第8回2021.11.21 会員推薦映画「恋妻家宮本」(2017年公開)感想
この映画は、50歳になる宮本陽平=阿部寛が主人公、宮本の妻=美代子に天海祐希共演のホームドラマである。この作品の様な映画のジャンルは、何と呼ぶのだろう。ホームコメディ(喜劇)と呼んだほうが、より相応しいのでは、と思った。
最初、題名を「恐妻家」と見間違えた。「恋妻家」(こいさいか)などという言葉を見たことも聞いたこともなかったからである。読み方もわからなかった。ラストシーンで、息子夫婦が住む福島の小さな駅で行き違いになったふたり(阿部寛と天海祐希)が、上下線の向き合ったプラットフォームで線路を挟んで会話をするシーンがあるのだが、天海が立っているすぐ後ろに「こいづま」と書かれた駅名板があった。なので題名は「こいづま」かと思ったら、「こいさいか」と読むらしい。
 原作は重松清の「ファミレス」という題名の小説。どうりでファミレスが度々出てくるわけである。導入もラストもファミレスの場面であるが、最初から笑ってばかりだ。色々な場面で笑いを取る設定が多い。映画を観て笑うのは、何と健康的なことかと笑いながら思った。
 主演は阿部寛。中学校の国語教師で昇進試験も受けていないので、ヒラの先生で終えるつもりだ。PCでなくTVの大きい画面で観たので、阿部寛の魅力を再認識することになった。
 阿部の一番の魅力は、だれにも負けない身長と大きな「目」。早口なのか活舌が悪いのか、語尾が聞き取りにくい話しぶりは、すでに個性の一部になっているので、私はあまり違和感を感じないが、気になる人もいるとは思う。目力は半端ないが、元々阿部の目はきつい印象ではなく、優しい感じがする。淡々としていて優柔不断ではあるが、まずまずの味を出す先生役にはピッタリであった。阿部は刑事の加賀恭一郎役の時も、ドラゴン桜の桜木の時も同じ目つきをしているが、それぞれに違和感はない。本人の個性勝負の俳優なのであろう。
 息子の結婚も決まり、料理学校に通い始めた陽平役の阿部に対し、出来ちゃった婚で教師の夢は夫に託し、専業主婦で一人息子が結婚して親元を離れたことで、喪失感が半端ない美代子役の天海。料理も得意な夫からもう自分は不要だといわれるのではないかと、先に離婚届を書いて本の間に隠し、ボランティアに勤しんでいる。夫の阿部は教師という仕事もあり料理教室にも通って妻より生活は楽しそうだが、ある日、その離婚届を見つけてしまう。料理グループのメンバーとして、それぞれが問題を抱えた既婚役の菅野美穂と30歳未婚の相武紗季。TVが主な活躍場所になっている女優たちだ。もう一人、若い頃の陽平役の工藤阿須加。こちらもTVが主の俳優だ。因みに、監督の遊川和彦は多くのTVドラマをヒットさせた著名脚本家で、この映画が初監督作品とのことである。
 天海祐希の背の高さが気にならないのは相手が阿部寛であるからだろう。お似合いの夫婦であった。
 何か残るものがあるのかと問われれば、何も残らないと答える。軽くて浅い喜劇映画だ。しかし笑える。おそらく真実が随所に散らばっているからであろう。
 ラストのファミレスの場面で各テーブルに登場人物たちが家族で座っている。そして吉田拓郎の「今日までそして明日から」をフレーズごとに順番に歌い繋いでゆく。71年流行の弾き語りのフォークソングが、全員での合唱にまでなってフィナーレ。拓郎も楽曲使用を喜んだことだろう。

※2024.10.17追記 
監督&脚本は多くのテレビドラマのヒット作品(GTO、女王の教室、家政婦のミタなど)の脚本を書いている遊川和彦。文学の同人たちで成る分科会の映画の会であったが、映画の会だけの仲間になった方が一人いて、その方の当番時の推奨映画であった。発表当時、新鮮な感じがしたのを覚えている。


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