日本のモノクロ映画「竜馬暗殺」黒木和雄監督
1974年公開「竜馬暗殺」 2020.7.1 石野夏実
東京新聞の夕刊に<あのころ映画があった=再発見!日本映画>という記事があって目を引いた。~これぞ日本のニューシネマ~と書かれていた作品は「竜馬暗殺」。監督は黒木和雄だった。
コラムニストは、共同通信の編集委員の立花珠樹氏(文化部記者であり映画本を何冊も出している映画通)であった。因みに氏は、1949年生まれであるということで、内ゲバだの新左翼運動だの過激な死語を生き生きと使いながらこの映画を分析評価している。
そもそも日本のニューシネマと呼ばれる作品はあるのかないのか(日本版ヌーベルバーグの存在は大きかったが)それも思い当たらぬままアマゾンプライムで、早速視聴した。
74年度ATGで公開のモノクロ映画であった。個人的には時代劇は陰影効果が出るモノクロが相応しいと思っているのでこの点は良かった。流血場面の黒い血は、赤色よりもわざとらしさがない。
配役は、主役の坂本竜馬に原田芳雄。共演の石橋蓮司が中岡慎太郎。松田優作が右太(うた)という薩摩藩の雇われテロリストを演じた。
竜馬が親友の中岡慎太郎と共に、京都の近江屋で刺客により暗殺される最後の三日間をモノクロの映像で追いかけている。
題名と結論が全てのこの映画は、観客の期待に沿って刻々と時を刻み余命を共有する。
竜馬の暗殺場所も日時も予め知っている観客は、その場面がいつ来るのか、ハラハラドキドキそればかりだ。
竜馬と中岡を暗殺する謎の刺客は、右太をやすやすと殺してしまうほどの腕前だった。
近江屋の土蔵にかくまわれ退屈な日々を過ごしていた竜馬であったが、この日は客を迎えたので、畳敷きの和室を使用していたし身なりも整っていた。
客が帰り、竜馬は和室の隅に中岡の二本差しを立てかけ、自分のそれもピストルも同じ場所に置いた。ふたりは久しぶりにじっくり話す時を得た。
陸援隊と海援隊。流血と無血。
そこへ刺客が。。
乱入に際し、竜馬は鞘から刀を抜くことはできず、前頭部を大きく切られた。倒れる竜馬。畳に流れ広がる黒い血。
外には、ええじゃないかの歌と踊り。集団は民衆のパワーを象徴している。
刺客が誰であったのか、色々な説がある。竜馬はすぐに息絶えたが、中岡はしばらくの間生き耐えたようだ。
竜馬は、時代の役割を早々と終えてしまったのだろうか。次の時代を見ることもなく。
エロとグロは、特に日本映画には付属品のように配置されているが、必要以上のサービスには辟易する。
この映画も、もっと減らしても少しも映画の価値は変わらないと思いながら観終わった。
昭和の原田芳雄竜馬は、小汚い身なりで暑苦しかった。
石橋蓮司中岡は清潔感があり、すっきりとしていた。
ふたりの役者の代表作でもある。もちろん黒木和雄監督の代表作でもある。
昭和全共闘時代は、小汚さも暑苦しさも敗北さえも美学であった。
そういうことにしておこう。