アメリカ、ドイツ合作映画「愛を読む人」

第9回(2022.2.2.)他会員指定映画「愛を読む人」〈2008年公開)感想
2008年の米独合作映画。日本では翌年に公開された。
原作は、ドイツ人の法学者のベルンハルト・シュリンクの1995年に発表された自身の少年時代を題材にした小説「朗読者」。ベストセラーになった原作を読んでいないので、映画を観ただけの感想です。
 
この映画、最初の方から素っ裸になる場面が多いため、惹かれあうその必然性を探しながらもエロ映画ですか、と思ったほどだ。ヨーロッパには、かなり年上の自分の母親ほどの年齢の女性に、少年から青年への移行期に恋する伝統?みたいなものがあるのではないかと思ってしまった。
しかし、考えれば逆バージョンもあるわけで(この映画の朗読にも出てくるチェーホフの「犬を連れた奥さん」は男性がかなり年上)年齢差の恋愛パターンにこだわる必要はないと結論した。
古今東西40歳くらいまでなら、これくらいの年齢差は外見の美醜による老いがまだ入ってきていないため、意識する必要のない年代なのかもしれない。

15歳の男のコ(マイケル)にとって、21才も歳の差がある36歳のトラムの女車掌(ハンナ)のひっそりと一人暮らしをしている生活は、どのように映ったのだろうか。
彼女は美しかったから興味深かったのだろうことは確かだ。もちろん気分が悪く嘔吐している自分を、テキパキと助けてくれた恩人でもあるが。

大人も子どもでさえも、複数の秘密を持っている存在であるとは心理学の話であるが、おそらく人間は、秘密なしでは生きられない生き物なのだろう。そして大人の秘密は、そのほとんどが恋愛関係だそうである。

ハンナには失うものはなさそうだし、まだ15歳のギムナジウム生のマイケルには、将来を考える余裕はない。目先の満足だけだ。そしてそれが彼の生きる目的の全てだった。

そんなふたりの行く末は、読み書きができないことを隠しているハンナに事務職への昇進の話が出て、彼女は秘密を守るため荷物をまとめアパートを出て行き、行方が知れなくなるところから次のステージに移る。

法学生になったマイケルは、ゼミの教授に連れられナチの戦犯の裁判を傍聴に行く。そこで被告席のハンナを見つける。ハンナは自分のサインさえ書けない文盲だった。
彼女は、この秘密を人に知られることを恐れまた守るため、アウシュビッツの監視員をしていた当時、爆弾投下で火災が起き、300人のユダヤ人捕虜が囚われていた収容所の鍵を外さず見殺しにしたとの罪状の責任者であったと認め、無期懲役を言い渡された。
マイケルは、やっと気が付いた。ハンナが決して本を手にとって読むことをせず、マイケルに朗読をせがんだ理由を。

彼は、ハンナの刑務所に自分がかって読み聞かせをした本を朗読したカセットテープとデッキを送った。次々に送る朗読のテープは、膨大な数になっていた。ハンナは、チェーホフの「犬を連れた奥さん」を手本に読み書きの練習を始め、手紙も書けるようになってきた。

無期懲役が20年の刑に減刑された。弁護士になっていたマイケルは、彼女の身元引受人になり彼女と面会をした。彼女の仕事も住む場所も用意して、迎えに行った出所のその日、ハンナが自殺したことを知らされた。
映像では、机の上に本を並べ、それを踏み台にした。。

マイケルは、離婚した妻との間のひとり娘も成人し、ふたりでドライブに出かけた。
訪れた先は、ハンナのお墓だった。
マイケルが娘に、自分たちの物語を話し出すところで映画は終わる。
「誰なの?」
「お前に話したくてここに来たんだよ」
「じゃあ話して」
「私は15歳。ある時、家に帰る途中で気分が悪くなり女の人に助けられた。。。」

文盲ということを一番隠したがっていたなら、どうして字を覚える努力をしなかったのか、市電の車掌をしている時でも時間を見つけて、勉強するべきだった。
送られてきたカセットがきっかけで、刑務所で字を覚え読書をして、やっと物事の本質を理解し考えることができるようになった。そのことにより、自分がアウシュビッツの監視人として仕事と割り切ってそれ以上考えることもなくしてきたことの恐ろしさと罪の深さに耐えられなくなっての自殺だと思う。300人の火災での見殺しも、何万人もそれ以上の人々を自動的に強制収容所送りにするのも、無知だから罪を考えずにできたこと。自分が出所して幸せに暮らす権利はないと悟ったから自殺したのだと思った。

しかし、翌日になると、こうも思う。
「もっとロマンスの物語を送って」とねだるハンナであったので、恋心は忘れていなかったのかもしれない。自分が坊や(=マイケル)に求めるロマンスは、手紙の返事もくれない、面会に来ても手を握り合うこともない、もう恋愛の対象ではない自分と、マイケルとの関係は修復できないと悟り、これ以上生きていく意味が見いだせなかったからかもしれない。
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当番からの質問(双方の気持ちは?)に対する私の考え
☆マイケルの気持ちは?=
自分が15歳の時にハンナと恋に落ちたが、まだ若すぎて自分を失くしていたことを隠したかった。 ハンナを守るよりも、自分の秘密とプライドを優先した。

☆ハンナの気持ちは?=
二通り考えました。
①ハンナは、文字を読み書きできるようになって色々な書物に触れ、ものごとを深く理解し考えることが出来るようになった。その結果、自分がしてきた罪の深さ、多くの人の命をモノのように扱い死へと送り出してきた。そんな恐ろしい仕業を仕事だと割り切ってこなしてきた自分が、生きて社会復帰して幸せになってはいけないと思い自殺した。牢獄の中でじっと死を待つ方が、まだ罪の償いであると思ったのでは。
 
②もうマイケルとは昔の仲には戻れないと、悟ったから。テープを送ってもらうようになってからは、自分でも勉強して文字が書けるようになり、手紙を出しているのに返事は全く来ない。テープだけは送り続けてくれているが。食堂での面会の時も、差し出した手にマイケルは少し触れてはくれたが、すぐに手を離した。
彼が自分に対して、もはや恋愛感情ではなく別の愛しかないと感じたから。

本を踏み台にして自殺したわけだから②かなと思うものの、心情的には①であって欲しい。
 

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