行定勲監督「ロックンロールミシン」感想

2002年公開行定勲監督「ロックンロールミシン」
             2024.1.26記    石野夏実
 
行定勲監督の初監督作品は97年製作の「OPEN HOUSE」であるが、その公開は6年後の2003年である。
2000年に袴田吉彦主演、麻生久美子共演の「ひまわり」が公開され、翌01年に窪塚洋介主演柴咲コウ共演の「GO」が大ヒットとなった。
「GO」は、その年の映画賞をほぼ総なめにし、大小合わせて60個もの賞を獲ったと監督の初エッセイ集「きょうも映画作りはつづく」(角川書店)に書かれていた。
そのお陰もあって「OPEN HOUSE」は日の目を見ることができた。
「GO」も「ひまわり」も、それぞれの感想をすでに書いていたり書く予定であるので、今回はDVDを観終わったばかりの「ロックンロールミシン」のことを、新鮮な気持ちが保持されているうちに書いておこうと思う。
 
風変わりな題名であるが、観始めれば納得する。
デザインを描き、パターンを起こし裁断し、工業用ミシンやロックミシンを慣れた手つきで扱うのは、今は駆け出しデザイナーの凌一(池内博之)とその仲間ふたり。ひとりは椿(りょう)という洋裁学校の講師で、もうひとりはロンドン留学帰りのカツオ(水橋研二)だ。

主人公健司(加瀬亮)が、街で偶然再会した高校の同級生の凌一にもらった名刺は、賢司を全く知らない世界へと誘った。
賢司が訪れた彼らのアトリエは、狭くて雑然としているけれど、才能と自由の象徴のような空間に見えた。そこへ魅せられ紛れ込んだ平凡なサラリーマンの賢司。
ロゴさえ決まっていない出来たばかりのブランドは「ストロボラッシュ」というカッコいい名前に決まった。
これは、彼ら1+3の青春を締めくくるのに値する二度と戻らないひと夏の物語である。
 
中高生ではなく、社会人になって食べるために生活していかなければならない状況下で、オリジナルで勝負したい夢を持ち、それを実現しようと集まり動きだしている仲間たち。
彼らの生き方に刺激され、賢司は部長を殴り会社に辞表を提出した。
恋人ともうまくいっていない賢司は、何か確かなものを掴みたかった。

凌一と仲間ふたり、合わせて三人で切り盛りしているアトリエは天国に思えた。
同じビルには移民たちも多く住み、彼らは夜になると民族楽器や飲食物を持ち寄り歌って踊って楽しいひと時を過ごしている。4人もそれに加わり楽しく過ごす。
しかし、束の間の幸せな気分はすぐに非情な現実に戻される。
  
このままでは赤字で工房が立ち行かない。
凌一は公募展への出品を諦め作品にはさみを入れた。
仲間たちも全ての作品にはさみを入れた。
もう一度リセットして出直す決意なのだった。

サラリーマンの賢司は考え直し、会社に戻るという選択をした。課長が辞表を止めておいてくれたのだ。
人生でたった一度しか経験できない青春の終焉、ひと夏の出来事。
それを映画にした。

学生でなくなった20代に位置する最後の青春時代。
その総仕上げの時を持てたことは、結果はどうあれ生涯の宝物だ。
ひと夏の思い出は、その先の長い人生の中で何度も思い出すであろう。
ナニモノをも恐れなかった時空を生きた、懐かしい若さの象徴だ。

ラスト近くにビルの移民たち全員が不法滞在で逮捕された。
彼らは凌一たちに貰った「ストロボラッシュ」のロゴ入りTシャツをおそろいで着ていて、カッコいいその姿はTVニュースで流された。
場中の選曲もとても良く、エンディング曲はScudeliaElectroの「Rockn roll missing」
最上級のロックだった。
 
 

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