ライトな話
突然だが、今回は明かり、灯り、あの「あかり」がテーマだ。少々オーバーだが、自分は“明かり”を、「ありがたい!」と感じることが多かった。
最も「おおお!」と思ったのは、東日本大震災で家がなくなり、会社で寝泊まりしていた時、後輩社員が車のバッテリーから灯した電球の明かりだ。
「ろうそくより明るい!」。夜にモノがはっきり見えることに感動し、社会的な生活が始まる事に力が湧いた。
そのほかにも、冬の夜空にイカ釣り船の光が投影される光柱現象や、川に流れる無数の灯ろうの光など、明かりの話は尽きない。
その中でも特にここに残したいエピソードがある。
それは中学生のころ。自分の古里は、リアス式海岸と呼ばれる海と山に囲まれた地域「雄勝」。猫の額ほどの平地に集落が点在し、それを結ぶのがクネクネとしたカーブが連続する峠道だ。絶好のツーリングコースではあるものの、夜の怖さといったら「それはそれはもう」、という約5キロの自転車通学路だった。
中学2年のころだったと思う。部活が遅くなり、鬱蒼とした林の中の峠道は真っ暗。少しだけ安心するのは、車が通るときだけだ。それもめったにないこと。心もとない自転車のライトを頼りに夢中でペダルを漕ぐ。
当時は怖い話が流行り、「上半身だけの女がパタパタと追いかけてくる」だとか「カーブを曲がると白い着物の女の人が立っている」だとか、嫌でも耳に入ってくる。
その日もだった。夜に一人で帰る自分に、したり顔で怪談話を聞かせてきた友人が憎らしい。いくらトガっている中学生でも怖いモノは最高に怖い。ミスチルやB’zを声に出して歌っても無駄だった。
考えないようにすればするほど、余計な想像が膨らんでくる。木の枝に垂れ下がったコンビニ袋に思い切りビビり、恐怖が最高潮に達していたときだ。雄勝湾が一望できる、ひらけた場所にたどり着いた。ちょうど月が対岸の山の上から顔をのぞかせるところだった。
見る見るうちに大きな大きな満月が姿をあらわす。真っ黒な海に反射したオレンジ色の明かりが、波に合わせてやさしく、ゆっくりと揺らめきながらも、自分の方へ伸びてくる。
見慣れた風景が見せた、いつもとは異なる姿。先ほどまで6段ギアで全速だった自転車を止めて、目の前の光景に見入る自分がいた。いつのまにか、さっきまでの怖さはどこかに吹っ飛び、気持ちも軽くなっていた。
あれから数十年。歳月の流れに津波が加わり、あの場所は跡形もなくなってしまった。それでも今でも、ストレスを感じると、あの光景が頭に浮かび、少しだけやさしい気持ちになれる。
2021年5月26日、「レッドスーパームーン」出現というニュースに思い出したこと。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?