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人工物からの離脱:熊野神社で感じた自然の力≪風土と感性プロジェクト フィールドワークレポート≫
初めまして。山口大学国際総合科学部4年の増田悠希です。この記事では、KDDI維新ホールの「山口ミライ共創ラボ」のプロジェクトの一環として実施されたフィールドリサーチプロジェクト「風土と感性」の対話イベントについてご紹介します。
「風土と感性」プロジェクトの紹介
「風土と感性」は、人工物でない「風土」が人間の感性や生活に与える影響をフィールドワークと対話を通して明らかにし、更にその考察について対話を通して考えを深めることを目的としたプロジェクトです。
今回のプロジェクトは、学生一人一人がフィールドを定め、その場所で学生自身が感じたことや考えたことを対話イベントで共有するという形で進められました。本記事では、主に私が選択したフィールドである熊野神社について、その調査プロセスや感じたことを共有させていただきます。
なぜ、山口の魅力を再発見したいと思ったか
このプロジェクトに興味を持った理由は、自分自身のレンズによって、生まれ育った土地である山口の特徴や魅力について深掘りしたいと考えたためです。20年間山口県内で過ごしたにもかかわらず、その特徴や魅力について尋ねられた時、観光地や特産品のように外部から高い評価を受けているものを挙げるばかりで、自分自身の感性と言葉で語ることができていませんでした。そこで、今回のプロジェクトを通して、山口県出身である自分自身の感性のレンズによって山口という土地を見直し、その特徴や魅力について再発見したいと考え参加しました。
フィールドワークの対象は陸の孤島のような地形を持つ「熊野神社」
私は調査・分析対象とするフィールドとして、山口市の熊野神社を選択しました。熊野神社は山口市熊野にあり、縁結び、縁切りの神を祀っているとして有名な神社です。その起源は室町時代までさかのぼることができ、大内義弘が紀伊山地の南東に位置する熊野三山に祀られる神である熊野権現を勧請したのが始まりだとされています。熊野神社と称する神社は全国各地に分布しており、その総数は稲荷、八幡に次いで多いとされています。それらすべての熊野神社は、紀伊国熊野地方にある熊野三社を総本山としており、この山口市にある熊野神社もその一つと言えます。
このフィールドを選択した理由は、その特徴的な地形に関心を抱いたためです。初めは、出身地である下松市の花岡八幡宮を候補として検討していました。花岡八幡宮は住宅地の中心にありますが、周囲の住宅と比較するとその神社の周囲にある緑地のみが盛り上がった小高い丘のような地形になっており、住居と隣接する立地でありながらもどこか周囲と隔絶された雰囲気を持ちます。この場所について坂口先生にご相談したところ、山口市にある熊野神社も似た地形を持つと教えていただきました。
人々にとって主たる日常である住宅や市街地と、一種の非日常である森や神社が近接する場所において、人々がどのようにその境界を知覚するのか、そもそもそれらに境界はあるのかを探りたいと思いました。
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一度目に感じた威圧感、二度目に感じた隔絶感
一度目の打ち合わせの時点でフィールドを花岡八幡宮から熊野神社に変更し、まずは様々な角度から山そのものの形を観察し、なぜこの場所に宗教性が見出されたかを考えるようアドバイスをいただきました。
日没後に行った第一回のフィールドワークでは、山の周囲を巡った際、地図上では小さく見えていた山が実際には大きな壁のように威圧感を持つ存在として感じられたことに驚きました。熊野信仰は山岳信仰の一つであり、滝や樹木、岩石などの自然物が紀州熊野に見立てられ、神秘的なイメージをもたらす媒体として捉えられてきました。この事を踏まえて山口の熊野神社を見た際、神社に続く石段や境内の景色からその名残を伺うことができると感じました。
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二度目、三度目のフィールドワークでは日没前に実際に神社に参拝し、神社のある山を登るにつれて車の音や人の声など人々の生活の音が段々と遠くなること、代わりに虫や鳥の声、木の葉など自然の音でいっぱいになることを感じました。階段を上っている時にはその緩やかな変化に気付きにくかったのですが、頂上の神社についてから後ろを振り返り街を見下ろした時、見慣れた街が遠く小さく見えることや街との隔絶を実感し、非常に印象的でした。
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プレゼンでは映像や音で臨場感を演出
フィールドワークで感じたことを坂口先生にお伝えし、階段を上る映像を見ながらディスカッションをする中で、映像と音声を他の人にも体感してもらうことで自分が感じた隔絶感を共有できるのではないかとのアドバイスをいただきました。そこで、可能な限り発表パートを減らし、実際に神社に行く際の映像や音から、見える景色や聞こえる音が変化する様子を感じてもらえるよう、大きなディスプレイと複数のスピーカーを用いて臨場感を演出できるようなプレゼンテーションの構成にしました。
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人工物を避けること、街を立体として見ること
このプロジェクトを通して、現代を生きる私たちが自然とつながるためには、「自然を求める」よりむしろ「人工物を避ける」意識が必要なのではないかと考えました。
耳を澄ませて神社の階段を上る中で、普段自分が無意識のうちに人工的な音に囲まれていると気付くことができました。デジタルデトックスのためスマートフォンやPCなどの情報機器を断ったとしても、室内であれば空調や電子機器、屋外であれば車や電車など、私たちのいる環境は人工的な音に満ちています。電線のある空や整備された町並み、子どもの声など人の営みと自然の共存も美しいものですが、無意識的に自分たちが埋もれている人工的な情報から意図的に離脱してみることで、新たな発見があるのではないかと考えました。
また、近年の自然への回帰や再接続という流れの中では、中山間地域含め遠方への旅行が取り上げられるように感じますが、熊野神社の例のように土地を平面的に見るのではなく立体的に見ることで、すぐに自然の中に飛び込むことができると考えました。これは山・海・街の入り組む立体的な地形を持つ山口という土地の特徴であり、私たちはその環境を享受しているという事実により意識的になることで、足るを知り、豊かな生活を送ることができるようになるのではないかと考えました。
〈執筆:増田悠希、編集:池口祥司〉