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建設業における発注者のコンプライアンス 契約金額編


1.不当に低い請負代金の規制

建設業法第19条の3は、請負代金が不当に低い場合に対する規制を設けています。この規制の目的は、下請負人が適正な報酬を受け取ることを確保し、建設業界における公正な取引を維持することにあります。具体的には、元請負人が予算のみを基準にして下請負人との協議なしに契約を締結することが問題とされています。これには、契約の際に下請負人と十分な協議を行わず、単に予算の範囲内で契約を進める場合が含まれます。また、契約が未締結の段階で取引不利を示唆するような行為も該当します。例えば、元請負人が契約の締結を渋ることによって下請負人にプレッシャーをかけ、相手が不利な条件で契約を締結せざるを得ない状況を作り出すことがこれに該当します。
さらに、元請負人が下請代金の増額に応じず、追加工事を強制することや契約後に一方的に代金を減額することも違法です。具体的には、工事の追加や変更が発生したにもかかわらず、下請負人に対して契約時の金額での作業を続けるよう強制することが含まれます。また、端数処理として一方的に減額する行為も問題視されています。これは、例えば請負金額に端数が発生した場合に、その端数を理由にして不当に減額することです。さらに、下請負人の見積書に含まれる法定福利費を削除することや、契約後に一方的に契約単価を提示し、その額で契約を締結する行為も違法です。これらの行為はいずれも建設業法第19条の3に違反する可能性があり、適切な請負代金の設定と契約条件の明確化が求められます。

2.不当な取引地位の利用とその影響

「自己の取引上の地位の不当利用」とは、元請負人が取引上の優越的地位を悪用し、下請負人を経済的に圧迫する行為を指します。具体的には、元請負人が下請負人に対して不公平な条件での取引を強制することが含まれます。例えば、大口取引先である元請負人が下請負人に対して不当に厳しい条件を提示し、下請負人がこれを受け入れざるを得ない状況を作り出すことが該当します。このような行為は、下請負人の経営に深刻な影響を及ぼす可能性があり、取引依存度が高い場合には特に注意が必要です。
元請負人の地位の悪用は、下請負人の資金繰りや事業運営に直接的な影響を及ぼします。例えば、支払い条件の変更や不当な請求などが挙げられます。これにより、下請負人は経営難に陥る可能性があり、業界全体の健全な競争環境を損なうことになります。また、取引依存度が高い場合には、下請負人が元請負人からの仕事を受けることが必須となり、結果として不公平な取引条件を受け入れざるを得なくなることがあります。このような状況は、取引先との長期的な信頼関係にも影響を及ぼし、業界全体の信頼性や効率性を低下させることにつながります。

3.「通常必要と認められる原価」とは

「通常必要と認められる原価」とは、工事を実施するために一般的に必要とされる価格を指します。この定義には、直接工事費、共通仮設費、現場管理費、一般管理費などが含まれます。具体的には、工事に必要な資材費、労務費、設備費などが含まれます。この原価の定義は、工事地域や施工に必要な価格の基準として用いられます。下請負人の実行予算や取引状況、地域内の工事代金の実例などが基準となり、請負代金の設定に反映されます。
建設業法第19条の3は、この「通常必要と認められる原価」に満たない請負代金の設定を禁止しており、契約後の代金減額もこれに該当します。これは、工事を適正に実施するために必要なコストを反映しない請負代金の設定を防ぐことを目的としています。例えば、材料費の高騰や労働力の不足などが発生した場合には、請負代金の見直しが必要です。適正な請負代金の設定は、工事の品質や安全性を確保するために不可欠です。下請負人が適正な報酬を得ることで、工事の完成度や安全性を高めることができます。

4.契約変更における違反のリスク

建設業法第19条の3は契約変更時にも適用されます。契約締結後に原価上昇や工事内容の変更が生じた場合には、下請代金を適切に増額する義務があります。契約後に代金を一方的に減額することは、実際の原価に見合わない場合に違法となります。例えば、工事の進行中に予期しない材料費の高騰や追加作業が発生した場合には、契約条件を見直し、適切な代金の増額を行う必要があります。
契約変更時に不適切な対応を行うと、法令違反のリスクを高めるだけでなく、下請負人との信頼関係にも悪影響を及ぼします。特に、代金の減額が実際の原価に見合わない場合には、下請負人の経営に深刻な影響を及ぼすことがあります。このため、契約変更時には迅速かつ適切な対応が求められます。また、契約変更の際には、変更内容を明確にし、双方の合意を得ることが重要です。これにより、トラブルを未然に防ぎ、円滑な取引を維持することができます。

5.原材料費等の高騰に対する適正な請負代金と工期設定

原材料費や労務費、エネルギーコストの高騰に伴い、施工に必要な費用が上昇する状況では、適正な請負代金の設定と工期の確保が求められます。元請負人は、原材料費の高騰や納期遅延などの理由で追加費用の負担や工期の変更を行うべきです。これには、材料費や労務費の変動を考慮し、適切な請負代金を設定することが含まれます。建設業法第19条第2項や第19条の5は、適正な請負代金設定や工期の確保に関する規定を設けており、必要な契約変更を行わないことは法令違反となる可能性があります。
特に原材料費の急騰や予期しない工期の遅延が発生した場合には、速やかに契約条件を見直し、適切な対応を行うことが重要です。これには、追加費用の負担や工期の変更を元請負人が率先して行うことが含まれます。また、工期の設定においては、現実的な施工スケジュールを策定し、適切な工期を確保することが求められます。適正な工期の設定は、工事の品質や安全性を確保するために不可欠です。

6. まとめ

建設業法第19条の3に基づく規制は、元請負人と下請負人の間での公平な取引を確保するために設けられています。この法律は、不当に低い請負代金の設定や不適切な契約条件の変更を防ぐために重要です。特に、元請負人が下請負人に対して不当に低い請負代金を提示したり、契約後に一方的に代金を減額する行為は、法令違反となる可能性があります。
また、契約変更時には原価の変動に応じた適切な代金の増額が求められます。原材料費や労務費、エネルギーコストの高騰に対しても、適正な請負代金の設定と工期の確保が重要です。元請負人は、これらの変動に対応するための契約変更を行い、下請負人と公平な取引を維持する責任があります。
この法律の遵守は、下請負人の経営を守るだけでなく、建設業全体の健全な運営にも寄与します。不当な取引条件の強制や契約後の一方的な変更を防ぐためには、元請負人が契約締結時や契約変更時に適正な対応を行い、法律に則った公正な取引を心がけることが求められます。

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