建設業における発注者のコンプライアンス 見積〜契約編
社会的意識の高まりによる法令遵守の要請は建築業界においては特に厳しく求められます。
元請け、あるいは一次請けなどの立場として請け負った工事を外部へ発注するにあたっては留意すべき点があります。
今回は見積段階から契約までの部分における留意点を解説します。
1.見積条件の提示について(建設業法第20条第4項、第20条の2)
建設業法に基づき、元請負人は下請負人に対して、工事内容や見積条件を適切に提示する義務があります。しかし、以下のような行為は違法とされる可能性があります。不明確な工事内容を提示して曖昧な見積条件を設定する、不適切に短い見積期間を設定する、地下埋設物による土壌汚染などの重要な情報を隠すなど、これらはすべて建設業法に違反する行為です。この法律の第20条第4項では、元請負人が下請契約を締結する前に、具体的な内容を下請負人に提示し、適切な見積期間を設けることが義務付けられています。
2.見積条件の具体的内容の提示
元請負人は、下請負人に見積を依頼する際、工事内容や施工条件など具体的な事項を提示しなければなりません。この際、建設業法第19条で定められた請負契約書に記載する事項(工事内容、工事開始および完了時期、支払方法など)のうち、請負代金の額を除くすべての事項を含める必要があります。また、工事の名称や施工場所、設計図書、施工範囲、工程、施工環境、費用負担区分などの重要事項を明確に提示することが求められます。これにより、下請負人が適切な見積もりを行えるよう、元請負人は情報を正確に提供しなければなりません。
3.見積期間の設定
建設業法第20条第4項に基づき、元請負人は見積依頼時に、下請負人が見積もりを行うために必要な期間を設ける必要があります。具体的には、工事の予定価格に応じて、最低でも1日から15日の見積期間を設けることが義務付けられています。例えば、工事の予定価格が500万円未満の場合は1日以上、500万円以上5000万円未満の場合は10日以上、5000万円以上の場合は15日以上の見積期間が必要です。また、追加工事や変更工事が発生する場合も同様に、適切な見積期間を設けることが求められます。
4.書面による契約締結の必要性
下請工事に関する契約は、書面によって行うことが法律で義務付けられています。建設業法第19条第1項により、契約書面には15の重要事項(工事内容、請負代金、工事の開始・完了時期など)を記載し、相互に署名または記名押印を行う必要があります。この手続きは、契約の明確性と正確性を確保し、紛争の防止や契約の公正性を担保するために極めて重要です。また、書面契約に代えて、電子契約も認められていますが、同様に必要な事項を記載することが求められます。
5.注文書・請書による契約
注文書と請書による契約も認められていますが、この場合も一定の要件を満たす必要があります。基本契約書が存在する場合、注文書および請書には、契約内容を明確にするために必要な事項を記載し、相互に署名または記名押印を行います。契約約款が複数枚に及ぶ場合は、割印を押すことも求められます。また、契約約款には、建設業法第19条第1項で定められた重要事項を記載する必要があります。
6.まとめ
元請負人と下請負人の間で適正な契約が締結されるためには、見積条件の提示や見積期間の設定、書面による契約など、建設業法で定められた手続きを遵守することが重要です。これにより、双方の信頼関係が確立され、公正かつ適切な工事が進行します。契約の透明性を確保し、後々の紛争を未然に防ぐためにも、これらの手続きはしっかりと行うべきです。
参考文献:国土交通省『建設業法令遵守ガイドライン:R5.6最終改訂』
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