スターはなぜスターなのか?(1)

 エンタメの世界には、きらびやかなスターが存在する。一握りのスターが人々を魅了し、多くの報酬を得る。エンタメ業界は、勝者が全てを得る世界(Winner takes all)である。売れた者は益々売れ、売れない者はその存在すら知られずに終わっていく。それでは、スターはなぜスターなのだろうか?

 1981年、経済学者の Sherwin Rosen は、少数のスターが多額の報酬を得るメカニズムの経済学的モデル構築を試みた[Rosen(1981)]。彼は、スターとそうでない者を分ける要因として「才能(Talent)」を自身のモデルに導入した。このモデルにおいて、彼は、才能の低い者は才能の高い者に対する粗末な代替え品でしかなく、結局才能の高い者に需要が集中すると主張した。そして、そのような状況では、僅かな才能の差が報酬の大きな差に繋がることを数学的に示した。

 この Rosen のモデルに対して、経済学者の Moshe Adler は、「いくら才能があっても、消費者に知られなければ売れることはない」と批判した[Adler(1985)]。そして、George Stlinger と Gary Becker によって提唱されていた、商品/サービスの価値を消費者が理解するためには、その商品/サービスに関する知識の蓄積が必要であるという「消費資本(Comsumption Captital)」[Stlinger & Becker(1977)] の考えを「探索コスト」として概念化し、Rosen のモデルに付け加えた。

 この Adler のモデルは、現在では Rosen のモデルに 「人気のネットワーク外部性(Network Externalities of Popularity)」を付け加えたと解釈されている。人気のネットワーク外部性とは、そのスターがメディアなどに登場すればするほど、ポジティブなフィードバックがかかり、益々人気が出て、消費者はそのスターに関する知識を益々蓄積していくということを意味している。

 こうして1980年代までに、スターを説明する要因として、「才能」と「人気のネットワーク外部性」という2つの要因が出そろった。次回の記事では、1990年以降のスター研究を見ていく。

参考文献

Rosen, S.[1981], "The Economics of Superstars," American Economic Review, Vol. 71(5), pp.845–858.

Adler, M.[1985], "Stardom and Talent," American Economic Review, Vol. 75(1), pp.208-212.

Stigler, G. & Becker, G.[1977], "De Gustibus Non Est Disuptandum," American Economic Review, Vol. 67(March), pp.76-90.

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石松 宏和/エンタメビジネス研究者
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