情報社会を生き抜くための本17「人工知能を超える人間の強みとは」(奈良潤)
文部科学省は2018年に『Society5.0と学校Ver3.0』というイメージを提示した。前提となるのが「Societ5.0の超スマート社会の実現に向けた人材の育成」という概念である。AIやIoTに取って代わることのできない「人間ならではの能力」を学校は育成しなければならないとしている。人間の強みをSociety5.0では「現実世界を理解し状況に応じて意味付け、倫理観、板挟みや想定外と向き合う力、責任を持って遂行する力など」と定義している。
奈良潤は、人間の強みは「直観」にあるとして、次のように述べている。「人口知能を支えているのは、アルゴリズム、統計、確率などである。直観的思考とアルゴリズム的思考の違いこそが、人間および人口知能による判断・意思決定の特徴を最もよく表していると考えられる。・・・直観のもろい側面に対して強みを発揮するのがアルゴリズム的思考や統計・確率なのである。すなわち直観の強みはアルゴリズム的思考の弱点を突くものであり、逆にアルゴリズム的思考の強みが直観的思考の弱点を突くのでる。両者の性質と力関係は、極めて対照的である。」
奈良は、この本の中でノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマンの研究を紹介している。人間の意思決定で重要な概念として、システム1とシステム2、ヒューリスティック、バイアスの3つがある。システム1とシステム2というのは、人間の思考には早い思考での意思決定(システム1)と遅い思考での意思決定(システム2)の2つがあり、正確性では後者が優れるということ。ヒューリスティックは、困難な質問に対して、適切ではあるが、往々にして不完全な答えを見つけるための単純な手続きとして、人が何か複雑で分かりにくい対象に出くわしたとき、物事を単純化して考えようとする心の傾向としている。そして、バイアスは、ヒューリスティクが働いた結果、人の認識に偏りが生じることである。
直観とアルゴリズムの優位性について、前述カーネマンと認知心理学者のクラインとの敵対的共同研究があり、以下のような優劣関係にまとめられる。興味深いのは、敵対的論争をした2人が、アルゴリズムは組織運営に向かないということは共通に認めている点だ。
ちなみに「直観」と「直感」のちがいはわかるだろうか。「直観」は、経験と知識、理解の先に生ずる無意識下の解法。「直感」は、根拠のない…いわゆるカン。