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情報社会を生き抜くための本10「2045年問題」(松田卓也)

2045年はシンギュラリティを迎える年と言われている。シンギュラリティは技術的特異点とも言い、「コンピュータが人類の能力を超える到達点」のこと。2045年問題と言われ、シンギュラリティに関する本はあまた出版されている。シンギュラリティを日本に広く紹介したこの本は2013年に書かれている。

シンギュラリティを提唱している第一人者は、アメリカのレイモンド・カーツワイルという人工知能の研究者だ。カーツワイルは、有名な「ムーアの法則」を持ちいいて指数関数的に技術進歩を追って行くと2045年に技術的な特異点に到達すると考えている。シンギュラリティの具体的イメージは「AIが人間の知能を超える」「AIがAIを作り出す」「AIが感情を持つ」だ。

松田は4つのシナリオとして整理している。
シナリオ1 :人間がコンピュータに支配される。「2001年宇宙の旅」で出てくるHALが実現する。人類は進化の頂点の座をバトンタッチする。
シナリオ2 :コンピュータの中に意識をアップロードし,肉体を失っても人類はコンピュータの中で生き続ける。カーツワイルの描く明るい未来に近い。
シナリオ3: 中間的な考え方。人間はそのまま存在し,コンピュータが人間の知能を増強する。「攻殻機動隊」の義体化をイメージ。現在もコンピュータで知能を増強しているが,それを推し進めた世界。肉体は存在している。
シナリオ4: 特に変化は起きない。未来を変える経済的な余裕が人類にはないと予測。コンピュータが人類の仕事を奪うことによって経済が閉塞する可能性が高いと考える。 
           

松田は、第3のシナリオになってほしいと願っていて,オンライン社会の予測を次のように書いている。「たとえば会議も何もかもがネットですんでしまうので,本人は会社に行かなくなります。私は京都に住んでいるのですが,打ち合わせのためにわざわざ新幹線に乗って東京まで出かける必要もなくなります。すると,自動車も新幹線も不要になります。交通機関が必要とされなくなるのです。現在,エネルギー消費の多くは交通機関が占めているわけですから,こういう世界になると,エネルギー消費が激減します。顔と顔を合わせて話をするのと,ネットですますのとでは,コミュニケーションの質が違うという意見もありますが,それは単純に情報量の違いです。あたかも直接その人と話をしているかのような感覚を味わえるに足る,十分なインフォメーションをおたがいにあたえられれば,それでよいのではないでしょうか。そういう状況で重要なのは,視覚と聴覚です。・・・」

 2020年,コロナ禍によってこのようなオンライン社会が予想以上に早く実現してしまった。交通機関が今後,どのような展開を示すのか。都会を離れて地方に人が戻ってくるのか。オンライン教育に強くシフトしていくのか。うまくバランスをとりながらシナリオ3を進んでほしいと願っている。


 松田は、この本の中で未来社会の危うさも指摘する。それはエネルギーの枯渇する社会だ。21世紀半ばに化石燃料が枯渇したときに近代科学技術文明は崩壊する危険性をもっている。エネルギー不足になると生活レベルを落とすことになる。生活レベルが落ちると消費が減る。経済が縮小する。緊縮財政をとると景気が悪くなる。財政危機が起きる。という負のスパイラルの予測だ。エネルギー社会から情報社会に移行することでこの危機は乗り切れるはずと、松田は情報化を強調する。この予測も化石燃料の枯渇を待たず,コロナ禍によって迎えることになってしまった。先行き不透明な社会の具現化という皮肉だ。情報化は予想以上に早く進めなければならない状況になってきた。