綱渡りの介護生活
「歌舞伎役者みたいやなぁ」
と笑う母に、腹が立つやらおかしいやら。
一昨日の夜、洗い物をしていたら悲鳴が聞こえます。
走って行くと母がファンヒーターの前で車椅子ごとひっくり返っていました。
3時間経つとアラームが鳴るファンヒーターのボタンを押そうとしたらしい。
少し動く右手だけ使って車椅子を動かすのです。
何度か転びそうな場面に遭遇し、
その度に一人で動かないよう注意するのですが聞く耳を持ちません。
そこで僕も母の元を離れる際、
ファンヒーターのスイッチを一度切って、
再度点火して、3時間アラームが鳴らないようにしていたのですが一昨日の晩、忘れていたのです。
ともかく母を起こし、意識があることを確認して車椅子に乗せました。
「どこ打った?」
と尋ねると
「このへん」
と左前頭部あたりを指します。
内出血が見え、腫れ始めていました。
病院へ連れて行こうと車椅子用のスロープを用意し始めたのですが、僕は酒を飲んでいることに気づきます。
仕事中の姉の携帯電話に連絡しますが繋がりません。
登録してあるタクシー会社の番号を押しながら、このところ運転手不足で、なかなか手配できないことも多いんだよなぁ、
最悪、救急車も覚悟していたのですが、タクシーが10分で来てくれるとのこと。
我が家から大垣市民病院まで10分ほど。
こうして転んでから30分後には病院の救急外来の待合室にいました。
ありがたいことです。
その頃には母の左目は四谷怪談のお岩さんのようにまぶたが下がるほど腫れていました。
CTのスキャンを撮る頃に姉が合流します。
画像から異常は見られませんでした。
しかし、翌日、脳神経外科で再診を受けて欲しいのとこと。
翌日からの上京予定を変更し、いくつか連絡を入れます。
翌朝、左前頭部分の腫れはひきましたが、内出血が両目の周りまで広がっていました。
写真を撮って見せてくれと言うので撮影すると最初のセリフを吐いたのです。
脳神経外科の医師によれば、とりあえず脳に異常はないけれど、
3ヶ月ほどすると内出血の血が溜まって脳を圧迫し、以前のように両手両足が動かなくなる可能性もあるとのこと。
だからと言って、特に何ができるわけでもないので普段通り過ごしてくださいと言われました。
「普段通りって言っとったで、いつものコーヒー屋さんへ連れてって」
と申します。
母の言うコーヒー屋さんは大垣駅北のショッピングモール内にあるスターバックス。
天井が高く、スターバックスから見えるショッピングモールの季節ごとの飾り付けが好きらしい。
カフェモカをすすり、自分が頼んだチョコドーナツに、ほとんど手をつけず、僕が頼んだニューヨークチーズケーキばかり食べ、
ご機嫌でクリスマスツリーを眺めておりました。
「いろいろな人に心配かけたで、皆んなに後ろ姿撮ってSNSにアップしとくで」
とシャッターを押すと
「前から撮りゃあ」
と母。
母は歌舞伎俳優顔がまんざらでもないらしい。
やれやれ。
綱渡りの介護は来年も続きそうです。
ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。