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『プロレスラーは観客に何を見せているのか』(TAJIRI)ブックレビュー

8月に買っちゃったよね、TAJIRI本。そもそもTAJIRIってどなたかというと、世界で活躍した日本人プロレスラー。彼の存在感は今も健在で、リングにおける技はもちろん、表現力やコメント力が魅力的で、まさに“世界観”を見せてくれる超一流レスラー。これはたまたまだけど、僕が初めてプロレスを見たのは確か当時小学4年生、1997年の1.4東京ドーム大会。グレート小鹿っていう選手がマサ斎藤の待つリングに中指立てながら凶器持ち込もうとしてたのを今でも覚えている。その大会、『新日本プロレスvs大日本プロレス』の全面対抗戦ってのが大テーマで、その中の大日本側の選手として同大会に出場していたのが当時の期待の若手選手、TAJIRI(当時は田尻)選手だった。
世界を知る男、TAJIRIはツイッターで新作著書『プロレス深夜特急』を告知。そのつながりで、そもそもの1作目の著書『プロレスラーは観客に~~』を知った。彼は『リングを支配するのはサイコロジーである』という―――いったいどういうことなのか、レビューします。

プロレスとは表現の世界

プロレスができる基礎技術や肉体づくりは大前提。そのうえで現実世界にはないファンタジーの世界を見せるのがプロレス。そのため、キャラクターづくりが必須。
練習では常に人に見られることを意識することが重要。海外武者修行では言葉の表現が使えないから表情を含めての表現力が身に着く。TAJIRIは初めて海外に行くとき周囲の反対を押し切った形だったが、同じく日常で悩んでいる人がいるなら『自信があるなら(たとえ不義理をしてでも)やった方がいい』と伝えたい。

技はキャラクターと心情を表すためのツール

料理に例えると、キャラクターが素材で技は調味料。だからキャラクターができているのが大前提だが、技がそれにあっていることが大切。大技を乱発するのは本来の形ではない。特に大切にしている技はハンドスプリングエルボー、タランチュラ、バズソーキック。中でもタランチュラは『何を考えているのかわからない薄気味悪い東洋人』として海外でキャラクターを確立するのに役立った。

WWEの教え

ビンス・マクマホンは常に「マネーイズヒアー」といって顔を指さしていたが、つまり『表情でプロレスをしろ、そうした者が金を稼げる』ということ。そしてキャラクターづくりのポイントはもともともっている素質を生かしたものでなくてはならない。お茶汲みなどをする姑息でこびたキャラはTAJIRIに合っていたが、サディストキャラは失敗に終わっている。
TAJIRIのいう『サイコロジー』は『理にかなっていること』を意味するロジックのようなものこうなればああなるからこうしていくべきを貫き、かつ無駄を排除することが大切。たとえば小柄なTAJIRIが大型選手と戦う場合は、頭を鋭く蹴るバズソーキックが有効→ゆえに相手の頭の位置を下にさせ蹴りやすくしたい→だから序盤は足を蹴り崩していく試合展開が想定される。。。など。WWEはこの『サイコロジー』の徹底ぶりが凄まじかった。

WWE退団後

帰国後ほとんどの団体からオファーを受けたが、『サイコロジー』について強く感じられたのがハッスルだった。入団後、安生のストーリーへのアイディアや高田の統率力の素晴らしさを体感。青春のプロレス学生運動のような期間だった。
世界観を自分なりに構築したくて、その後SMASHを立ち上げた。限られた選手層の中、テーマにしたのは『余韻に浸れるプロレス』。スターバック参戦までの演出や、大会終了後のエンディング映像など新しい試みで大成功した。
2017年からWWEに復帰したものの、即怪我に見舞われ、あっという間に終了。振り返ればあの期間はWWEへの未練をなくす『成仏期間』だったのかもしれない。再度帰国後に全日本プロレスで行ったウルティモドラゴンとのタイトル戦は自身の中でもベストバウト級の試合だった。
世の中には理不尽なことがある。だから世の中の縮図であるプロレスにも理不尽な決着などはあってしかるべき。楽しいプロレスだけでなく、そうした世界観全体を見せていきたい。

いやぁたまらなかったですね、こりゃ。P125あたりからのサイコロジー論とかはもう必見ですよ。あとは各技の誕生秘話(P77)とかエディゲレロ(P120)の天才話とか、ハッスル/SMASHあたりの裏話とか。盛りだくさんでこれぞプロレスファンのための本って感じ。読みやすくて良本でした。
プロレスを見て、ちょっと知った気になっている僕みたいなプロレスファンには是非読んでいただきたい!

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