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『俺のダチ。』(鈴木みのる)ブックレビュー

プロレス関連の本は読み始めると没頭しすぎて抜けられなくなるんだけど、我慢できずに買っちゃいました。“本物の男”、鈴木みのる選手の著書です。プロレスの本を読むのはTAJIRI選手の『プロレスラーは観客に何を見せているのか』以来ですかね?ギャーギャー賑わせるだけ賑わせて中身のないコンテンツが増えている中、この人たちがやっていることは“本質”に辿り着いたまさにプロフェショナルな芸当。『俺のダチ。』も、濃かったです。
この本は、鈴木みのるの“ダチ”たちとの雑誌などでの過去の対談が一冊にまとめられたもの。試合の裏話は勿論、ジャイアント馬場や猪木、ブッチャーなど往年のレスラーの知られざる話、プロレスラーとしてのあるべき姿勢とかがふんだんに語られていて、めちゃめちゃ気持ちいい内容でした。

中でも、ジョシュバーネットとの対談がよかったな。そのまま抜粋します。

ジョシュ「いまの若いレスラーにもストロングスタイルを身に付けてほしいと思っているんだけど、ロープワークや派手な動きに偏りがちで、プロレスの根源がどこにあるのか、理解できなくなってきていると思う」
鈴木「ちゃんと闘う練習をしないと、プロレスのリングで闘いを見せられなくなるんだよ」
ジョシュ「それは単なる格闘技の技術的なことじゃなくて、プロレスへの取り組み方、考え方、アティチュードの問題。猪木さんの『燃える闘魂』もそうだよね。」 

俺のダチ。(P195)

たまらんなぁぁぁぁ~~~~~!

さぁ、レビュー行きましょうか。


第1:天龍源一郎

・女房に「男の意地じゃなくて所詮自己満足なんだよ!」といわれたことがある。若き日のみのるにぴったり(P20)
・みのるが「SWSなんて」といったら天龍は「『SWS』というと懸命にやってくれているスタッフを巻き込んでいる。『天龍気に入らねぇ』といえ」といった(P24)
・藤原さんが全然練習しないと思っていたが、実はSWSのチケットを売りに奔走していた(P26)
・プロレスに戻りたくなったみのるは、「全てを超えたものがプロレスだ」といった馬場さんの言葉の意味を今実感(P29)
・天龍に言われた「いいレスラーというのは自分が何をしたいのかを見せるレスラーじゃない。客が何を見たいのかを察知できるレスラーだ」という言葉が衝撃だった(P35)
・馬場「プロというのはお客がいて、リング内で俺たちがやることを喜んでくれて初めて成り立つ」。猪木「客はお前らのケンカを見に来ている」(P37)
・力道山、馬場、天龍は相撲や野球のバックボーンがあるが猪木はない。だからこそガチガチの練習を猪木はやった。(P38)
・天龍はプロレスの「客の反応あってこそ」の部分にハマった。あの一体感は何物にも代えがたい(P40) 

第2:高山善廣

・みのるの初期の試合を見て、「受け身を取ったら鈴木みのるじゃないよ」とアドバイスした(P58)
馬場のセオリー「首を上下左右に振らせれば、お客さんは退屈しないんだ。だからたまにトップロープに上がったり、走ったり、お客さんの顔を動かすのは大事なんだぞ」(P65)
・桜庭のプロレスはつまらない。「プロレス技を出すのがプロレスじゃない。自分がやってきたことをプロレスに置き換えるだけ」(P77)
・桜庭はPRIDE時代の緊張感やスリル、凄みをプロレスに変換すべき。相手に技をかけた時の客の期待感を作ることがプロレスラーの技術(P82)
・みのるはゴッチに、高山はビルロビンソンに習ったから技の一つ一つの違いを知っている(P84)。馬場のヘッドロックや猪木のアキレス腱固めは強烈だった(P86)

 →馬場さんのプロレス観やセオリーが素敵すぎる。あと、桜庭に対する『自分がやってきたことをプロレスに置き換えるだけ』っていう感想が秀逸。

第3:小橋建太

・握手やまともな会話は小橋引退後、「最後だから握手しよう」から始まった(P94)
・第一試合を猪木が務め、みのるが繰り上げ。第一試合に誇りや意義を感じていたみのるは、納得がいかず抗議した。結果として猪木に気に入られシングルが実現(P105)
・小橋vsみのる戦は馬場vs猪木の代わりの姿。ゴング直後の立ち振る舞いを意識した。(P108)
・東日本大震災の際、宮城で会った若者に「プロレスを見せに帰ってきて」といわれ、生かされている意味があると感じた(P120) 

第4:初代タイガーマスク

・ゴッチが共通の師。ゴッチは整理整頓にうるさい。「レスラーは頭の中を図書館にして、闘っている時にいつでも最適なものを取り出せるようにしなくてはならない」(P133)
・みのるはアメリカでもシンプルな技と表情と間を使って勝負。タイガーマスクも空中殺法をやっているように見えてストロングスタイル(P137)

第5:モーリススミス

・みのるvsスミスは3度実現。初めての試合では、それまで強いフリをして生きていたみのるは恐怖を感じ、ビビった(P147)
現在MMAは少しのスキルがあれば強い選手はとにかくみんな同じスタイルで勝つための方法論が決まっているように見える。パンクラスのクラシックスタイルはよりスキルを重要視していた(P156)
・賢いファイターはいかなる場合でも対戦相手から学び取る(P160)
今のファイターは金持ちになりたいからやっているように見える。大事なのは基礎をしっかり身に付けて、格闘技自体に情熱を持つこと。結果としてお金がついてくる(P165)

 →モーリススミスとの対談、めちゃ面白かった。現代MMAへの考え方とかを通じて、パンクラスへのリスペクトを感じた。また、格闘技への情熱が根底にある必要があるっていうのは、平本蓮とシバターの動画にも通じるものがあって既視感があった。

 第6:ジョシュバーネット

・みのるはデビュー2戦目以降、ロックアップもロープワークもしないスタイルを実践。猪木、藤原に褒められた(P177)
パンクラスは「プロレスのやり方を取り入れた総合格闘技」をやった(P179)。勝つことも大切だがお客さんを満足させて帰したいというベースの考えがあった(P179)
・ゴッチはみのるに「俺がお前に教えているのはこのレスリングをずっと残してほしいからだ。誰かのお金を増やすためのことではない!」といった。このことから、みのるは以前ジョシュからのセミナーの依頼を断った(P184)
・ゴッチとビルロビンソンの違いは「相手を殺すキャッチ」か「正しいキャッチ」か。サイドポジションではロビンソンは「前腕で相手の顔を押さえて腕を取れ」、ゴッチは「顔面に肘を落とせ」(P187)
・『〇〇の弟子』というブランドで商売をするレスラーが多い。ゴッチ、藤原はみのるを『友達』という(P190)
今のレスラーはロープワークや派手な動きに偏りがちで、根源である「闘う練習」が足りていない。単なる技術ではなく、取り組み方、考え方の問題(P195)
・ジョシュの手がけるブラッドスポーツ(興行)は、同じ考えを持ったレスラーを集めるのが大変。佐藤光瑠はいいレスラー。(P197)

→ロビンソンとゴッチの考え方の対比が何度読んでも笑ってしまうwww
ジョシュのプロレスオタクぶりがいかんなく発揮されたパートだったし、だからこそプロレスへの考え方が魅力的だった。あと、佐藤光瑠が評価されているのがなんか意外だった。 

第7:中井祐樹

・根本的な考えとして、格闘家は自分が勝つことが最優先だが、みのるたちはお客さんに見せることが一番というところから始まっている(P215)
・今のUFCはレベルが上がりすぎて、ポイント取りのゲームな側面も。一方、マークハントの試合は面白い。レベルの高いもの同士なら最後は根性がものをいう(P219)
・ただやりたいから練習(スパーリング)を続けているうちに、当時はわからなかったことがわかってきた。(P226)
・U系のプロレスには戻らない。そうじゃないプロレスの面白さを知った。昔は技で沸かすのがうれしかったが、今は技なしでも沸かせられる。(P233)

→まずね、前章のバーネットを読み終えた時点でクッソ満足して充実した気持だったところから次のページで飛び込んできた『中井祐樹』の文字がよかったわぁ~~“え、ここから中井祐樹!?”みたいな高揚感(笑)
技ではない部分で沸かせられるというみのるの表現は実に的確で、非常に頷けた。

第8:中村あゆみ

・「誰にも真似できない、ずっと古くならない曲」を作りたかった(P249)
・「みのるの動きは風が吹いているみたい」と言われたことからガウンに『風』の文字を入れた。これがのちの『風になれ』に繋がる(P253)
・パンクラスで『風になれなくなった』あたりの時期は曲に対する後ろめたさが生まれたため、入場曲を変えていたが、ライガー戦で覚悟を決めて使用を再開(P260)
・歌詞の『教えてよ』の世界観は尾崎豊の『生きるって何だろう』というテーマと通じる。『闘うって何だろう』とも共有するテーマ(P263)

第9:ファンキー加藤

・プロレスが子供の時から好きすぎたファンキー加藤。プロレスごっこで弟とイデオロギー闘争になり(P284)、いじめっ子をプロレス技でKOした(P286)
総合ブームの時、加藤は「今見放したらプロレスがダメになる」と思いプロレスを見続けた。プロレスに多くをもらった分、今度は俺がプロレス界に返すという感覚だった(P288)
・みのるが「46歳の今が一番楽しい」「自分のベストバウトは昨日の試合だ」といったことが、ファンモンから独立した時の自身の不安の解消のきっかけに(P294)
・今までと同じ速度で惰性で行くこともできるが、常にリセットして作り直していきたい(P295)
自分のやりたいことは大切だが、プロならそれ以上にお客さんがどう思うかを考えるべき(P299)
・ワンマンライブは何をやっても歓声になるからそればかりだと勘違いすることになる。だから夏フェスに出て力量を計っている。プロレスは客が自分のファンとは限らない点で常に夏フェス。新日は常に客もいて盛り上がるため、ある意味ワンマンライブ状態。だからこそ、今の新日の若手は他団体に行くと戸惑うことも(P303)

 →あんまり期待していなかったんだけど、ファンキー加藤さんの章がめっっちゃくちゃ面白かった。まず、加藤さんがファンの鏡過ぎて推せた(笑)
あと、音楽とプロレスの共通点・・・というか対比がかなり新鮮な見方だった。

第10:愛甲猛

・今の若手はとにかく練習でも最短距離を求める。本当の意味で身に付けることはできていない。(P329) 

第11:葛西純

・みのるは葛西の「デスマッチで『死ぬ気でやる』は違う。俺は生きるためにやっている」という言葉に共感(P353)
・みのると葛西の共通点は「どこにでもあるような技を使っていても客がうれしそうに見る」こと(P358)
「日常的なもので人の頭をさすことが一番バイオレンス」がブッチャーの凶器論。だからフォークやボールペンを使っている。咥える時と構える時と刺す時、一番いい角度に向きを変えている。(P363)
・どんなに評論家に評価されても、客を集められなかったらプロじゃない(P368) 

→ブッチャーの凶器論、かっこいいわぁ~。

第12:エル・デスペラード

・プロレスは表現の世界でもあるが、その技術を本当に身に付けているのとモノマネでやっているのでは全然違ってくる。「〇〇直伝」だけ欲しがるやつが多い(P378)
・根性論は昨今否定されがちだが、根性なかったら勝てない(P380)
みのるはデスぺを弟子とは思っていない。藤原さんは「師弟関係というものは弟子が決める」と捉えていた(P386)
・見た目や形じゃなく、その中に流れているものやプロレスへの姿勢をストロングスタイルという(P389)

→恥ずかしながら僕も最初、デスぺが『ストロングスタイル』に所属したことには違和感があったけど、考えが浅はかでした(苦笑)
あと、デスぺとの対談では、ところどころジョシュや中井祐樹との対談と共通する考え方があって、結局重要視している本質的な部分って共通しているんだなぁって思った。ついでにいうと、師匠が弟子を弟子と呼ばないところが、ソクラテスに似ていると思った笑

 さてさて、楽しかったなぁ~『俺のダチ。』。もう2回ぐらい読みたいけど、ぐっとこらえて次の本に行こう。
そして読み終わったら、風になって帰ってこよう。

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