股関節の基本理解と変形性股関節症へのアプローチ

「股関節の基本理解と変形性股関節症へのアプローチ」
股関節は肩関節(肩甲上腕関節)と同じ球関節という形態をしています。肩関節ほどの大きな可動域は持ち合わせていませんが、その代わりに強靭な筋肉と靭帯により重い上半身を支え、歩いたり走ったりすることができるほどのパワーを生み出すことができる関節です。

股関節の内部には重厚な靭帯群があり、さらにその上に深部の細かく強い筋肉、表面には3層構造の筋肉が存在しています。
さらに腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯、輪帯、この4本の靭帯が股関節を支えている靭帯です。寛骨の3パート(腸骨・恥骨・坐骨)と大腿骨頭をそれぞれ連結し、さらに輪帯は最深層にあり、関節面をグルっと1周包み込んでいるような形態の靭帯組織です。

股関節と関わりの大きい仙腸関節についても基本事項を確認しておきます。仙腸関節の周囲にはたくさんの靭帯が存在しており、仙腸関節およびその周囲の骨との連結をしています。仙腸関節の前面を覆うように位置する前仙腸関節靭帯、後面では後仙腸靭帯、仙骨と坐骨棘を繋いでいる仙棘靭帯、仙骨と坐骨結節を繋いでいる仙結節靭帯があります。いずれも治療上で大変重要なポイントとなる部位です。

これら仙腸関節に関係する靭帯は多くの固有感覚受容器を持っており、姿勢の維持や主に背筋群の緊張調整に関わっているとされています。
固有感覚受容器とは言わば、全身各所に存在している身体のバランスセンサーの役割をもつ神経組織であり、全身の筋肉の中や靭帯の中にあります。何らかの原因により、この固有感覚受容器が異常な神経信号を発することで神経・筋肉の緊張が生じ、同時に関節本来の正常な働きを低下させることで痛みや過剰な緊張を生んでしまうものだと考えられています。

私は股関節と仙腸関節の連動性に着目し、股関節の施術に仙腸関節および仙結節靭帯などの靭帯へのアプローチを展開していますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
股関節の関するご相談のうち、最も多いのがやはり変形性股関節症と診断を受けた方々です。

変形の状態と進行度(ステージ)、炎症や関節浸食の確認には専門医による画像所見と診断が必須であると考えますが、手術を受けることを迷われている方、手術適応ではないと診断を受けているが、毎日の疼痛に苦しまれている、著しいQOLの低下などによってご相談を頂くケースが少なくありません。

変形性股関節症の患者さんの中には、この発育性股関節形成不全(Developmental Dysplasia of the Hip: DDH)を持っている方が少なくありません。先天性股関節脱臼と呼ばれていたもので、略して「先股脱(せんこだつ)」と言われていましたが、最近では股関節発育性形成不全:DDHと呼ばれています。
これは名の通り股関節の発育が何らかの原因によって遅れ、股関節の臼側と頭側の嵌りが浅く、外れやすい・外れそうで不安定だという状態です。

関節の不安定性をカバーするために、周囲の軟部組織が緊張し、周辺組織との癒着を起こし、可動域の著しい低下とそれによる疼痛と歩行障害を併発していく可能性の高いものです。
DDHに苦しむ患者さんの多くは、疼痛度や生活の状況を加味して、外科的手術を受ける方が最近では少なくないかと思いますが、患者さんの選択によって、我々が積極的に貢献できるケースもあります。
根本的な完治は難しいものですが、OOLの低下を防いだり、疼痛の緩和を図ることができます。

その為には何よりも患者さん自身との対話を深め、共通理解のもと安全第一に無理のない手技と計画的な施術マネジメントを提供する必要があります。
DDHの可能性がある場合、診断を受けている場合は特に、股関節の屈曲、内転、内旋の複合的な姿位を極力さける必要があります。これは股関節の緊張が弛緩し、臼蓋から大腿骨頭が脱臼しやすいLPP(Least Pack Position)となるためです。
丁寧な股関節の可動域検査(ROM:Range of Motion)による評価が前提となります。
また可動中の急激なエンドフィール(関節の運動終止感)が出現する場合が少なくありません。急激な操作は禁物です。
施術の方法を動画にていくつか紹介しておりますが、これはほんの一部であり、個々の患者さんのケースによって様々な応用があります。
一貫して言えることは、力任せな操作や強い圧を加えるなどの操作で、変形を呈した関節面及び周辺の軟部組織に明かな効果を出すことは困難であり、むしろ状態を悪化させてしまう可能性が高くなるものと考えます。
大きなポイントは、いかに他動域とエンドフィールを回復できるかということです。

関節のAccessory movement(アクセサリームーブメント:副運動)もしくは関節包内運動に着眼し施術内容を構成することが大切になってくると考えています。
実際の施術においては、股関節は比較的大きな部位のために施術に工夫が必要ですが、その様々なバリエーションをお伝えしていければと考えています。

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