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鬼木フロンターレとは何だったのか:Vol.9〜堅守を支えた谷口彰悟が高々と掲げたシャーレ。最少失点で成し遂げたリーグ連覇の意味。

リーグ連覇を達成したこの年、特筆すべき点として挙げられるのが堅守でした。

 リーグ最少失点となる「27」を記録。攻撃力を看板に掲げてきた川崎フロンターレが失点を減らして勝ち続けたわけです。これは2年目となった鬼木フロンターレにおける最大の特徴であり、リーグ連覇を支える要因ともなりました。

 実は、シーズン序盤から守備意識の違いを感じる場面がありました。

  中心にいたのはディフェンスリーダーである谷口彰悟です。実はACL初戦の上海上港戦では、左目のコンタクトレンズを落とした状態でプレーをしていたことで、クロス対応を誤ってしまい、結果的にはエウケソンに決勝点を許しています。そして続く蔚山現代戦では足元のミスからカウンターを食らい、決定的となる2失点目の遠因となってしまいました。

 だからでしょう。

ジュビロ磐田に3-0と勝利したリーグ開幕戦後、谷口はこう胸を張っています。

「ここ最近、自分もミス絡みで失点していたし、今日こそは絶対に失点しないという強い気持ちで入った。何が何でも勝つことが大事だった」

 チームの勝敗も背負っている自覚があるからこその発言です。例えばこの開幕戦では、先制点が生まれる前に、チームには二つの大ピンチがありました。

 前回に続き、今回はあの磐田戦を守備の側面からフォーカスしたいと思います。

ひとつは17分のフリーキック。中村俊輔のボールを高橋祥平がヘディング。ポストに当たったボールに川又堅碁が詰めるも、これを空振り。そのこぼれ球に大井健太郎が反応してましたが、それよりも一瞬早くカバーに入って、素早くクリアしたのは谷口彰悟です。

 もうひとつは22分の決定機です。

エドゥアルドをかわして、スペースに抜け出したアダイウトンとGKチョン・ソンリョンの一対一。ここはソンリョンのビッグセーブでことなきを得ましたが、エドゥアルドが抜かれた後、猛スピードでスプリントして戻ったのが谷口でした。

 自分のミスではなく、味方のミスです。最終的に谷口自身はアダイウトンに追いつかず、シュートブロックにも間に合っていません。谷口自身もアダイウトンに追いつけると思っていなかったと言います。

 しかし彼は最後まで諦めない「姿勢」を見せました。そこが大事だからです。

「監督から言われたのは、『最後の最後まで守る人がいるのだから、何が起こるか分からない。最後の最後まで追う、戻るとか、そういうことをやらなくてはいけない』ということ。それは約束というか、抜け出されようが最後の最後まで、というのは徹底しないといけない」(谷口)

 ソンリョンはキャッチングしましたが、もしこぼしていたら・・・、あるいは、もし谷口が戻っていなかったら・・・・セカンドチャンスで相手に詰められていた可能性もあったかもしれません。実際、蔚山現代戦ではミスからのピンチを防いだ後のリカバーを失敗して、チームは2失点を喫してます。

 あの場面は飛び込んでかわされてしまったエドゥアルド個人の軽率なミスと言えます。しかし、それをみんなでカバーする。その意識を出して達成した無失点だったと谷口は胸を張ります。

「無失点でホッとしている。パーフェクトではなかったが、ミスが出た後にみんなでカバーすることができた。ソンリョンが止めてくれたし、みんなで助け合いながらの無失点だと思う」

 何より、最後まで諦めない姿勢を強調するところが鬼木監督の求める守備でもありました。指揮官もあの場面を引き合いに出して、こう賞賛しています。

「あの場面でも最後にしっかりと戻ってくる。そういう細かいところがあるから、ソンリョンの良いプレーが出た。ショウゴが一生懸命戻ったり、ああいうプレーを続けているのが大事だと思っている。もちろん、ああいう(ピンチの)形はこの先もある。ただ、そういう時に諦めずに戻る。そういう姿勢を貫くことが大事」(鬼木監督)

 実際、この大ピンチを凌いだ直後にフロンターレの先制点が生まれているわけです。この開幕戦では、シーズンを通じて発揮される守備陣の強い思いがこもっていたと思います。ハイライトではピンチをしのいだ場面も収録されているので、見直してみてください。


 この守備姿勢は第2節の湘南ベルマーレ戦でも見られました。

1-1で迎えた後半44分の場面です。ボールロストからカウンターの形となり、相手FW野田隆之介にDF奈良竜樹が振り切られて独走を許した局面。湘南はカウンターの出足が早く、すでに後方から何人かの選手がゴール前に走り込んでいる状態でした。

 この1対1を防いだGKは新井章太。ただ彼が感謝していたのは、素早く自陣に戻り、パスコースを防ぐ対応を見せた谷口の判断です。

「ショウゴの対応が良かった。中に一人がいて2対1の状況だった。ショウゴが良い判断でペナ(ペナルティーエリア)まで戻ってきてくれて、それで相手が判断を迷った。中もアキくんとネットが戻っていた。ショウゴもシュートされるまで見ていたし、あれはDFが頑張ってくれたおかげ」(新井章太)

 1対1と聞くとボールホルダーが圧倒的に優位に思えるかもしれませんが、GKの間合いに引き込んでしまえば、局面の主導権がGKにあることも珍しくありません。あの場面での野田は、谷口のコースを消す駆け引きもあり、GKとの1対1のシュートを「打たされた」格好になっていたわけです。谷口が明かします。

「パスをけん制しながら、時間を稼ぐということ。味方が戻ってくるのを待ちながら、という時間をかけるほうを選択した。そのときに、相手に迷いが見れたんですね。そのときに、どのタイミングで勝負するか。結局は、シュートを打たせてしまったんですが、できれば、あそこでブロックしたかった。ただGKと協力して、GKのコースを消す。GKのタイミングで持っていければ、そこでしっかりとショウタくんが防いでくれた。中に出されて、ノーチャンスになると厳しかったので」(谷口彰悟)

 よく見ると、谷口だけではなく、家長昭博とエドァルド・ネットも猛スピードで自陣に帰り、野田がシュートにいく時にはシュートブロックの姿勢を見せています。重要なのは、その姿勢です。

 フロンターレのようにボールを保持して相手を押し込むサッカーをしていると、ああいった形のカウンターを受けるリスクは、ある意味、必要なコストでもあるわけです。だからこそ、起きた時にどれだけ対処できるか。

「DFとしてはああいうシーンをなくしていかないといけないが、そういうシーンが出てしまった後にどれだけ助けられるか。ああいったシーンで全力で戻ったり、体を張ることですね。前がかりになっている分、リスクは高くなっている。その分、周りがカバーする。早く戻る。そういうところをやっていけないといけない。そこで怖がって引いてしまうとかではないし、そこはチャレンジ&カバーを徹底すれば問題ない」(谷口彰悟)

 これは開幕戦と第2節のピンチを防いだ場面を取り上げただけにすぎません。

シーズン通じて、リーグ最少失点「27」を記録したのは戦術的で徹底されていたことのある背景もありますし、ボランチに定着して守備の安定感に貢献した新人の守田英正という個人の存在など、複数の要因があります。

 でも最終的には、チームとしての姿勢が積み重なって表れた結果が、最少失点という数字だったのではないかと思っています。「勝負の神様は細部に宿る」と言いますが、差がつくのはそういうところなのだと思います、本当に。

 この2018年、優勝セレモニーでシャーレを掲げたのは、守備の要として君臨していた副キャプテンの谷口彰悟でした(キャプテン・小林悠の欠場のため)。

 今季もフルタイム出場を達成。全身全霊で最終ラインを支え続けた男の頑張りが、報われた瞬間でもあったと思いますし、このシーズンを象徴していたようにも見えました。

最少失点でのリーグ連覇。このチームの成長ぶりは、タイトルの味を知ったクラブが、違う勝ち方を掴み始めたシーズンだったようにも感じました。

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いしかわごう
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