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「DIAMOND DAYS」(ルヴァンカップ準々決勝2ndレグ・ヴァンフォーレ甲府戦:1-1)

 後半からピッチに入ったファン・ウェルメスケルケン際は、並々ならぬ気合が入っていたようにも見えた。

 彼はヴァンフォーレ甲府の下部組織出身である。トップチーム昇格の打診もあったというが、高校卒業時にオランダに渡ることを決断。それも、オファーがあったわけではなく、自らの売り込みで道を切り拓いた。プレー映像を自分で編集し、履歴書をオランダ語で作成してクラブ宛に送って返事を待ったという。

「一試合一試合、自分が良かったプレーはいつの試合だったかなと思い出しながらパソコンに取り入れて、一つのPVというものを自分で作って。その中でCV(履歴書)も作らなきゃいけないので、言語の壁というか、全部自分で完璧なものを書くというのはまだまだできなかったので、父母の手伝いのもとで完成させて全チームに送ったという形ですね」

 オランダでは、約10シーズンに渡って複数のプロクラブでキャリアを積んだ。そして29歳になった今シーズンから、川崎フロンターレからのオファーを受けて日本でのプレーを選択した。その1年目に、カテゴリーの違うヴァンフォーレ甲府と対戦するとは思わなかったと言う。試合前は「恩返し」というフレーズを口にした。

「こんな巡り合わせがあるんだなという気はしてます。それもホーム・アウェイと両方できるっていうのはなかなかない機会だと思うので。もちろん思い入れもありますけど、しっかりと良いプレーをして勝ち切って、結果で恩返ししたいなと思っています」

 小瀬のピッチからの景色を見るのも高校生以来だ。6月に誕生日を迎えた彼は、現在30歳である。試合後のミックスゾーンで「ここでのプレーは、いつも以上に気合いが入ったのでは?」とその思いを尋ねると、ウインガーだった高校時代の記憶を引き出しながら、こう話し始めた。

「ここでの最後の試合がクラブユース(実際にはJユースカップ)でフロンターレとの試合で。その時も自分が1得点2アシストか2得点1アシストだったのですが、結果は逆転負けしたので。だから今日は逆の立場になっちゃったので不思議な感じだったんですけど、今回は勝てて良かったです(笑)」

 勝ち上がりを決める劇的な同点弾をお膳立てしたサイドバックは、そう言って笑っていた。

 それにしても、出し手と受け手がシンクロした美しいゴールだった。

もともと、正確なクロス自体は彼の武器ではある。ただ、それが相手守備陣に効果的な武器になることを確信した上で、積極的にクロスで揺さぶっていこうと狙っていたと明かす。

「第1戦目から浮き球に対してヴァンフォーレ自体があまりいい対応をしていないと感じてました。ただ1戦目はそこまでクロスが上がっていなかったので、自分が入ったらクロスをあげようと思っていた」

 後半から供給したいくつかのクロスを通じて、自分のボールフィーリングも良かった。その感触の良さを持ちながら、アディショナルタイムにスナイパーのようにピンポイントクロスで仕留めた。

「中がうまいタイミングで走ってくれた。いいところに上がりましたけど、ああやってうまくヘディングしてくれた大弥に感謝です」

なお、記者席からはクロスの軌道と飛び込んだ遠野大弥、そしてゴールに吸い込まれていく景色がとてもよく見えた。まるで時間がスローモーションのように流れて「あっ・・・入るな」と思ったほどだった。

 決めた遠野大弥は、ミックスゾーンで「あそこは、もう頭ですね。小さい頃からああいう練習していたので、報われてよかった」と言って、はにかんでいた。

 彼の「小さい頃からああいう練習していた」と聞いてふと思い出したことがある。それは少年時代の憧れの選手が、地元の清水エスパルスに所属していた岡崎慎司だと話していたことだ。その代名詞である豪快なダイビングヘッドに魅了されて、飛び込んでいくヘディングシュートをよく真似していたと聞いたことがある。

 とはいえ遠野のヘディングゴールは珍しい。それよりも、ピッチで見せるゴールに対するがむしゃらさに岡崎慎司の影響があるのだろうな・・・と勝手に思っていたのだが、まさかダイビングヘッドを決めるとは。ダイビングヘッドというか、「ダイヤ」モンドヘッドというか。

 奇しくも、甲府市はジュエリーの企業や工房の多くが集まっている「宝石の街」として有名である。そこでダイヤが輝くとは、なんだか少しばかり出来すぎたストーリーだなと1人でニヤリとしてしまった。

 遠野自身もこの試合に並々ならぬ思いを秘めていた。

※第1戦のレビューはこちらです。



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