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「私、知っているんです」 (リーグ第3節・アビスパ福岡戦:2-1)

 試合前のメンバー紹介。
アウェイチームである川崎フロンターレの選手たちを紹介し終えたスタジアムDJは、たっぷりとした間を取ってから「監督・長谷部茂利」をアナウンスした。

 スタジアム全体から大きな拍手が湧き起こる。僕が座っている記者席の前はメインスタンドエリアなのだが、そこで観戦している福岡サポーターの多くが、その場で立ち上がって拍手を贈っていた。

 多くの説明はいらない。
長谷部茂利がこの場所で成し遂げてきことの大きさを物語っている光景だった。

 同時に、平日に福岡まで駆けつけたゴール裏のフロンターレサポーターから「長谷部フロンターレ」コールが響き渡る。

監督としての長谷部茂利は、過去を生きるのではなく、すでに現在を生きているのである。耳に馴染み始めた「長谷部フロンターレ」のコールは、この日だけはそんな意味と意思を伝えるようなフレーズにも聞こえた。

 両チームの選手が入場する。
コイントスが終わり、選手たちが自陣に散り始まる。そしてキックオフを待つ間、僕はいつものようにノートにお互いの布陣を書き始めていた。

開幕から連敗中のアビスパ福岡は、4バックから3バックに変えてきたことが予想される顔ぶれ。なので福岡のフォーメーションは、試合が始まって確認してから書こうと思った。一方で、川崎フロンターレの並びは、おそらくいつも通りだろう。

GK山口瑠伊、右からファンウェルメスケルケン際、高井幸大、丸山祐市と・・・背番号で書き始めてピッチに目を移すと、「あれ?」と思った。両チームの選手が配置にはつかず、入れ替わるように移動し始めていたからだ。つまり、コートチェンジを選択したようだった。

 これにより、お互いが前半から自チームのゴール裏に向かって攻めることになる。

 なぜだろうか。柏レイソル戦のように、風の影響が大きいようなスタジアムには思えなかった。ただDAZNの実況を聞いていたら、後半に相手の勢いを削ぐためにエンドを変えることを、昨年の長谷部監督はわりとよく行っていたそうである。なるほど。

 実際、この試合後の会見でコートチェンジの理由を問われた指揮官は、こう明かしている。

「このスタジアムでは、ゴール裏の応援がある90分前後、あそこのゴールに入れることが多い」

そして少しだけ間を置いて、こう微笑んでいた。

「私、知っているんです」

このスタジアムで、後半の福岡が見せる得点力を熟知している、指揮官らしい作戦だった。

では試合の振り返り。ラインナップはこちら。


では、スタート!

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