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「真夏の夜のご褒美」 (リーグ第21節・横浜F・マリノス戦:1-0)

「負ける気はしなかったです。勝つべくして勝ったと思います」

 劇的勝利の余韻がまだ残っていた試合後のミックスゾーン。両チームの誰よりも早くそこに現れた遠野大弥は、そう胸を張っていた。

 この人はミックスゾーンに出てくるのがいつも早い。抜群に早い。まだ誰も出てきていない時間帯に、1人でひょこっと現れて通っていく。なので、だいたい呼び止められてコメントを求められる。この試合もそうだった。

 決勝弾の起点となったのは瀬川祐輔だったが、遠野大弥はそこにつながる仕掛けを見せている。自分が聞きたかったのは、そこの場面よりも、その前のPKを獲得した場面での駆け引きだった。

 71分、浮き球を巡って橘田健人が競り合い、さらに球際のバトルを制した瀬川祐輔が素早く反転。そこからの鋭いスルーパスに遠野大弥は抜け出している。

相手最終ラインのギャップを突いて突破し、飛び出していたGK一森純を交わそうと横に揺さぶったところで、そのまま強く倒された。あの場面では、どんな駆け引きがあったのだろうか。

「抜け出して落ち着いて決めようかなと思ったんですけど、思いの外ちょっと痛かったです(笑)。その前に打つタイミングはあったかもしれないですけど、そこは判断かなと思ってます」

 結果的に倒されてしまったものの、狙いとしてはGKを横にかわしてシュート、のイメージだったのだろうか。

「そうですね。けど思いの外、ちょっと強く選手が来たんで。自分で打ちたかったですけど」

 そして聞きたかったことが、もう一つ。

家長昭博のPK失敗の後に見せた、チームの勝利への執念である。

勝敗のターニングポイントになるPKが止められたことで、そこからの試合の流れは横浜F・マリノスに傾いても何らおかしくなかったはずだ。GK一森純のGKストップは本当に見事だったし、あれは確実にホームチームに勇気を与えるセーブだった。

 だが川崎フロンターレの選手たちはその波に飲み込まれることなく、むしろ抗った。トーンダウンするのではなく、むしろギアを上げた。果敢に攻め続けていき、何とかこじ開けようとしていく。選手たちのあの姿勢はどこから来ていたのだろうか。それを聞いてみたかったのだ。

「(PKを)止められても負ける気はしなかったです」

 遠野大弥はそう話してくれた。

千載一遇のチャンスであるPKが得点に結びつかなくても、負ける気はしなかったのだという。その感覚を説明してもらうのは野暮だが、本人が言うには、ピッチに入った瞬間、そうなったのだという。だから気落ちしてもおかしくない展開からでも、むしろ強気で攻め続けた。

 76分、山根視来のサイドチェンジを左サイドで受けた遠野大弥は、それをプレーで表現している。1対1の局面から強気に仕掛けて強烈にシュート。一森純にうまく弾かれるも、何とかしても勝利を掴もうとする意志のこもった一撃だった。

 他の選手たちも果敢にシュートを打ち続けた。最終的には、こうした姿勢が最後の最後で実ったのだと、遠野大弥は胸を張っている。

「どんどん圧をかけていった結果が、ゴールネットを揺らせたと思います」

 そしてもう1人。

この選手にも、話を聞きたいと思った。

 家長昭博だ。

ピッチで独特のオーラを放つ重鎮は、試合後のミックスゾーンでも気軽に話しかけられない雰囲気がある。

ただ声をかければ必ず立ち止まって答えてくれるし、こちらが「重要なこと聞きたいのだ」という意志を込めながら質問をすると、しっかりとした言葉を返してくれる男でもある。

ミックスゾーンに現れた彼を呼び止める記者はいなかったが、自分は聞きたいと思った。

 この試合での家長昭博は、ポジションを崩してゲームメークに関わる時間帯は少なく、右サイドで張ってフィードを引き出して縦に突破するウイングとしての仕事の役割が多かった。特に前半はそうだ。

 チームの狙いと個人の判断と、後半のあのPKシーン。何より勝敗を分けたものは何だったのか。

こちらが声をかけると、彼は立ち止まってくれた。

※(追記)7月18日の練習後に取材をしました。チームのPKキッカーを家長昭博に指名し続けている理由について、鬼木監督が自身の考えを語ってくれました。成功率が高い反面、失敗した場合のダメージも大きいのがPK。そこには鬼木監督らしい考えがありました。

→■「僕自身は変わらずアキに言うと思います。その(失敗した)一回でどうこうではないです」(鬼木監督)。指揮官が明かした、家長昭博にPKキッカーを託し続けている理由。


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