「彼はゲームを支配していた」 (リーグ第26節・FC東京戦:3-0)
試合後のミックスゾーン。
山田新に報道陣が殺到していたタイミングで、気配を消して通り抜けようとする選手がいました。
大島僚太です。
ピッチだけではなくミックスゾーンもすり抜けるのが得意な選手ですが、こちらが声をかけると立ち止まってくれました。他の記者があまり寄ってこなかったので、マンツーマン気味に少しゆっくりと話を聞くことができました。
聞きたかったのは、追加点を奪った後の前半の試合運びです。2点を取った後、チームのハンドルを握っていた大島僚太は、中盤でボールを持っても決して攻めを急がなくなりました。むしろスローテンポに持ち込むように、後方に下がって最終ラインで時間を作る振る舞いをしていきます。
後ろでボールを動かしながら、前がかりになった相手のプレスを剥がして背後を狙ったカウンター(いわゆる擬似カウンター)も狙えたと思うのですが、無理に縦を選択しません。2点目以降、前半の大島の選択は、ほとんどがバックパスか横パスです。なんでもっと縦に速く攻めないのかを疑問に思った方もいたかもしれません。実は前半の川崎フロンターレのシュート数は2本。要は、ゴールを決めた山田新のヘディング2本だけなのです。
シュートまで持ち込まない試合運びを観ていて、自分は「相手の足を止めること」を意識したボール回しで時計の針を進めようとしているのだろう、と理由を推測していました。
スタジアム観戦していた方ならばわかると思いますが、この日の現地は信じられないほど暑かったです。試合前に日は沈んでいたものの、スタジアムはほぼ無風状態で、動かなくても息苦しさを感じるような環境下でした。
公式記録によれば、キックオフ時の気温は32.1℃。ただピッチ上の体感気温はもっと高かったのではないかと思います。この暑さで激しく動き回るなんて、選手の過酷さに頭が下がる思いでした。
しかも試合前の演出でド派手な花火が多く打ち上げられ、その煙がピッチに充満したままのキックオフ。まるで発煙筒を炊いたかのような光景で、「ここはセリエAか?」と記者席から突っ込みたくなってしまいました。
真夏の多摩川クラシコは、まさに灼熱の戦いだったんです。
これだけ暑さが敵になるならば、ボールを動かす技術を備えたチームが優位に立ちやすいはずです。ボール支配率を意識的に上げて、シュートは打たずとも守備機会を減らして、体力もセーブする。逆に相手は走らせて消耗させる。そういう灼熱仕様の試合運びをする必要があると思ったのです。
なので「相手の足を止める」、あるいは「走らせて体力を使わせる」という狙いがあっての、あの後ろ目のポジショニングと後方でのボールの動かし方、そしてどこかテンポを落としたゲーム運びだと見立てていたんですね。
でも実際には違いました。
・・・なんというか、彼のゲームコントロールは見ている世界が違いましたね。
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