「それ以外に何がある」(リーグ第1節・FC東京戦:1-0)
2022年2月17日。
今シーズンのJリーグオープニングマッチとなる、川崎フロンターレ対FC東京戦前日のこと。ゲームのプレビューを書きながら、テレビで北京五輪・カーリング女子の予選リーグ最終戦を見ていた。
日本は勝てば自力で突破できる条件だ。
だが首位のスイスは強かった。日本は4-8で敗れて、5勝4敗という結果で予選リーグ終了。自力突破こそ決まらなかったものの、同時刻に行われていたスウェーデンが韓国を下し、カナダ、イギリスと日本が並んだ結果、ドローショットチャレンジ(DSC)の差で4位になった。他会場の結果により、日本の準決勝進出が決まった事実はテレビ中継でも大々的に伝えられていた。
ところが、である。
現場にはその情報がまだ伝わっていないようだった。目の前の試合に敗れた日本代表「ロコ・ソラーレ」の面々は、予選敗退が決まったものだと受け止めており、悔しさを噛み締めている。試合直後と思しきミックスゾーンでのインタビューでも、彼女たちの表情はみな沈痛な面持ちだ。藤沢五月は、今にも泣き出しそうな表情で「(負けたのは)私の責任です」と自身の出来を悔やんでいた。
見ている側との温度差があまり激しい中、インタビュアーは吉田知那美に「準決勝進出を可能性としては残しています」と水を向ける。しかし彼女は「・・・・ん?」と聞き返し、再び準決勝進出についてコメントを求められると、「うーん」と困惑しながら、「LSD(ラスト・ストーン・ドロー)がよくないので、(準決勝に)上がらないと思います」と、準決勝進出についてはやんわりと否定。中継では、そんな噛み合わないやりとりが放送されていた。
同時刻に行われていたスウェーデン対韓国の結果が出たのは、このインタビューの直後だったらしい。JDコーチこと、ジェームス・ダグラス・リンドから準決勝進出の事実を伝えられると、「嘘でしょ!?」「本当なの?」と、驚きと喜びが混じった感情のまま、彼女たちはその場にへたり込んでいた。
・・・この力が抜けてその場に崩れ落ちる光景。
なんとなく、他会場の結果でリーグ優勝が決まった瞬間の川崎フロンターレの選手たちの姿を思い出した。ここ5年で4度のリーグ優勝を果たしているが、2020年以外は他会場の結果待ちだった。自分の力が及ばないであろう領域で起きた大きな結果が自分たちに微笑むと、人はあんな感じになるのかもしれない。
地獄から天国・・・・と言ったら大袈裟だが、メダル争いへの生還を果たした翌日。彼女たちは、前日に敗れたばかりの相手であるスイスを破って、史上初の決勝進出を決めるたくましさを見せた。
中継は等々力の取材を終えた帰り道、スマホアプリの「NHK+」で見ていたのだが、電車内で大興奮である。試合後の吉田知那美は、「何も言えねぇ!」と、北島康介の名言をオマージュしたコメントで笑わせていた。
これで銀メダル以上は確定である。
さて。このカーリング準決勝が始まる2時間ほど前、Jリーグの2022年シーズンが幕を開けた。オープニングマッチは川崎フロンターレ対FC東京の多摩川クラシコだ。
試合は川崎フロンターレが1-0の勝利。
圧巻だったのは、鮮やかな決勝弾を決めたレアンドロ・ダミアンと、獅子奮迅の活躍で完封したGKチョン・ソンリョンの2人だろう。
思えばちょうど10年前のロンドン・オリンピック。
ブラジル代表FWのレアンドロ・ダミアンは、銀メダリストにして得点王に輝いている。韓国代表で出場したチョン・ソンリョンも銅メダリストである。
そう、2人とも五輪メダリストなのだ。だからなんだと言われればそれまでなのだが、そんな事実を思い出して、こじつけたくなっただけだ。
そしてこの2人は、川崎フロンターレがリーグ3連覇を逃した2019年シーズンの悔しさを知る選手でもある。
■(追記:2月21日)開幕戦では何が大事なのか。優先順位を間違えずに勝ち点3を手繰り寄せた、鬼木監督のマネジメント力。そして、飲水タイムがないシーズンだからこそ、行ってきた準備。
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