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「Some was not built in a day.」(ACLE MD5・ブリーラム・ユナイテッド戦:3-0)

※11月28日、東京ヴェルディ戦に向けたオンライン囲み取材がありました。対応したのは鬼木監督と神田奏真です。デビューでゴールを決めた神田奏真には、ゴールシーンを掘り下げて聞くことが出来たので、後日取材として追記しておきます。

あの場面でボールを奪った瞬間、最初はそのまま自分で仕掛けてシュートを打つことしか考えていなかったそうです。にもかかわらず、なぜパスを選択したのか。そもそも、いつ判断を変えたのか。もっと言えば、なぜあの場面で相手CBのボールロストを誘発できたのか。18歳でありながら、しっかりとした観察眼と、判断を根拠にした実行力を持っているストライカーであることがわかります。

ちなみに得点後、ベンチにいたスタッフやメンバーも大喜びしている様子が試合映像でも流れていました。実は試合前からいろんな先輩たちに「お前が点を取る」と言われていたそうです。

鬼木監督も「本番になったらスイッチが入って、グッともう一段上がったような感じがあった」と評しています。そんなエピソードも追記しておきました。全部で約2500文字の追記ですので、ぜひどうぞ。

■(※追記:11月28日)「奪った時に、最初はシュートしか考えていなかったです」(神田奏真)。プロデビュー戦で引き寄せたゴール。18歳のストライカー・神田奏真の優れた観察眼と判断を巧みに変えた実行力を読み解く。

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 川崎フロンターレには、Jリーグ史上初となる3年連続得点王に輝いたストライカーが在籍していたことがある。

 大久保嘉人である。
2013年から15年の3シーズンに記録したもので、今から10年ほど前の話になる。個人としては、J1歴代最多となる通算191得点を記録している。どちらも、いまだに破られていない金字塔だ。

 なぜそんなにゴールを決めることができるのか。あるとき、ゴールを量産できる秘訣について聞くと、彼からはちょっと意外な言葉が返ってきた。

 それは、ノドから手が出るほどゴールが欲しいときほど、あえて欲を出さないということ。むしろ周囲を見渡しながら、チーム全体がうまく循環するように心がけてプレーしていたのだという。Jリーグ随一のストライカーは、こんな風に説明してくれた。

「自分のゴールが欲しいときほど、そこで『自分が』、『自分が』となるんじゃなくて、みんながうまく回るように意識してやるんよ。人のために動くと、良いところで自分にボールが転がってくるんだよね」

 ゴールを決めたいときこそ、自分ではなく、人のために動く。あるいは味方を使う。そうすることで、不思議とチャンスが巡ってきて、最終的には自分のところにボールが回ってきて、ゴールを決めることができるという。

 誰よりもゴールを奪ってきたストライカーのたどり着いた境地は、どこか逆説的で深いものだなぁと、実に感心したものだ。

 なんでこんな話をしているのかというと、このブリーラム・ユナイテッド戦で決めた神田奏真の初ゴールが、まさに「人のために動く」ことで巡ってきたゴールだったように自分には見えたからである。

 アディショナルタイム、エリソンと交代する形でピッチに入った神田奏真が鬼木監督から受けていた指示は、前線からの守備だったという。

 そして自身の得点シーンも、積極的な守備から始まっている。

プロ公式戦デビューを飾った若武者は、早く前に運ぼうとしていたカーティス・グッドのボールコントロールが、少しだけ大きくなる瞬間を見逃さなかった。球際を作って素早く距離を詰めて、うまく引っかける。ボールが高く跳ねると、それをうまく頭でコントロールすると、そのままゴールに向かって突進した。

 この時点で、残っている相手ディフェンダーは1人だけ。後方からは山田新が走り始めており、2対1の大チャンスである。

 ただこの瞬間の局面、10代のストライカーであるならば、自ら仕掛けて勝負するものだと自分は思っていた。

なにせ、これは神田奏真というフットボーラーにとって記念すべきプロデビュー戦である。時間はすでにアディショナルタイムに入っており、残りの時間で自分にシュートを打つチャンスが巡ってくるかどうかわからない。

せめてシュートを一本でも打って爪痕を残したい。特に10代に若者であれば、そんな風に思っても当然だろうと思っていたからだ。


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