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「ないものねだり」 (天皇杯ラウンド16・高知ユナイテッドSC戦:1-0)

割引あり

 残された試合時間は、あとわずか。
祈りを込めたようなロングボールがGK上田樹から前線に届けられる。

 ワンバウンドしたボールはフロンターレ守備陣の背後に落ちるが、GKチョン・ソンリョンが冷静に処理する。この時点でアディショナルタイムは目安の3分に達している。

 ソンリョンがボールを蹴り出すまでもなく、小屋幸栄主審のタイムアップの笛が鳴り響いた。

 ガックリと肩を落とし、倒れ込む赤いユニフォームの高知ユナイテッドの選手達。ガンバ大阪と横浜FCのJ1勢を連続撃破してきた快進撃はここで止まった。

一方、白いユニフォームの川崎フロンターレの選手達は、勝利を噛み締めるというよりも、安堵しているようにも見えた。

 それも、そうだろう。
勝って当然と思われるゲームほど、難しいゲームはない。相手は4部相当のアマチュアクラブ。J1同士の試合では見られないほど一方的な構図で試合が進むやりにくさもあったかもしれないし、負けが許されないというプレッシャーも普段よりあったことは容易に想像できる。

 将棋の故・大山康晴名人の名言に「相手を甘く見ることは、自分をも甘く見ることになる」という言葉がある。

 川崎と高知との力の差は歴然としている。だからと言って、カテゴリーが下の相手を甘く見ると、それが命取りになることもある。それはサッカーの勝負にも言えることだ。鬼木監督は、決してJFLの高知を甘く見ていないことの伝わる顔ぶれで戦い、勝ち切った。

「いい勝ち方とは言えないかもしれないけど、次に繋げられました。この勝ちをリーグ戦に繋げられるようにしたいです」

 テレビ中継のヒーローインタビューでは、決勝弾を挙げた佐々木旭がそう述べる。内容はともかく、しっかりと勝ち切った結果は残る。彼自身にとって公式戦でのゴールとなると、プロ初スタメンを飾った去年の鹿島アントラーズ戦以来だ。プロ2年目の若者は、タイトルへの想いもこう口にした。

「取れるタイトルは全て取りたいと思ってます。個人的にも、入団してまだタイトルが取れていないので、そこはなんとしてもチャンスがある限り、諦めずに取りにいきたい」

 そうだった。昨年入団した佐々木旭は、まだタイトルの味を知らないのだ。

※8月4日に後日取材による追記をしました。→「今日はそのまんまの話を、選手たちにもしました(笑)。でもこれはネガティブな話ではなくて、必ず若い選手たちが通っていく道だと思います」(鬼木監督)。チームとしてもう一段階上がるために、若い選手たちに身につけて欲しいもの。


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