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「鉄のハート」 (リーグ第20節・湘南ベルマーレ戦:1-1)
Jリーグ公式には「達成間近の記録について」というお知らせページがある。
試合前日にアナウンスされるもので、平たく言うと、「もし次の試合に出場したりゴールを決めた場合、こんな節目の記録になりますよ」というものだ。例えば今回の第20節ならばこんな形である。
■個人記録■
<J1通算出場>
関根 貴大(浦和)通算250試合まであと1試合
大島 僚太(川崎F)通算250試合まであと1試合
木本 恭生(FC東京)通算200試合まであと1試合
植田 直通(鹿島)通算150試合まであと1試合
樋口 雄太(鹿島)通算150試合まであと1試合
立田 悠悟(柏)通算150試合まであと1試合
山下 達也(C大阪)通算150試合まであと1試合
垣田 裕暉(鹿島)通算100試合まであと1試合
安部 裕葵(浦和)通算50試合まであと1試合
齋藤 功佑(東京V)通算50試合まであと1試合
安井 拓也(町田)通算50試合まであと1試合
小島 亨介(新潟)通算50試合まであと1試合
河田 篤秀(鳥栖)通算50試合まであと1試合
山﨑 浩介(鳥栖)通算50試合まであと1試合
<J1通算得点>
パトリック(名古屋)通算100得点まであと3得点
水沼 宏太(横浜FM)通算50得点まであと2得点
阿部 浩之(湘南)通算50得点まであと2得点
レオ セアラ(C大阪)通算50得点まであと3得点
■チーム記録■
<J1通算得点>
ガンバ大阪 通算1700得点まであと1得点
浦和レッズ 通算1600得点まであと2得点
ジュビロ磐田 通算1400得点まであと2得点
・・・この中で「大島僚太 (川崎F)通算250試合まであと1試合」の一文がある。彼がJリーグ通算249試合出場を刻んだのは、去年の7月1日に行われた名古屋グランパス戦だった。
ところがこの試合を最後に大島僚太はピッチから姿を消し、出場時間の数字も止まっている。ただし、記録がかかっている事実は残る。翌日のメンバー表に大島僚太はいないことがわかっていても、試合前日には「通算250試合まであと1試合」として毎節アナウンスされ続けた。それを見るたび、なんとも複雑な気持ちになったものだ。
そして354日ぶりに、彼はピッチに戻ってきた。
ウォーミングアップで大島僚太のチャントが始まると、Gゾーンだけではなく、メインスタンドからも大きな手拍子が起こる。そして終わると、等々力は大きな拍手に包まれた。そして試合前のメンバー発表でその名をアナウンスされると、誰よりも大きな歓声と拍手が起きる。
みんな待ち焦がれていたのだ、大島僚太を。
ピッチに入ったのは80分のことだった。
自身を新人の頃を知る小林悠と並んで交代を待っている背番号10の後ろの姿は、なんだか中村憲剛が長期離脱から復帰した2020年の光景みたいだった。あの時は入った直後の中村憲剛がファーストプレーでシュートしてなぜか小林悠にぶち当てたなぁ、とかそんなことまで思い出してしまった。
大島僚太が250試合目のピッチに立った時間は、6分のアディショナルタイムも含めると合計で20分にも満たない。そして自分はピッチに立った大島僚太のプレーそのものよりも、その背後に流れている時間を見ていたような気がする。
先週の練習後、大島僚太は囲み取材に応じている。
その時に大島自身がトレーニングで意識していることとして「思い出すこと」だと語っていたのが印象的だった。
「記憶の部分を思い出しながら。それがスムーズに出せるようになれるのが大事だと思ってます。ただ走る、頑張るとか、そういうことで上がるのと同時に、それで失うものもある。頭の整理を、試合に出る上では準備していきたいです」
一般論だが、走るとか頑張ることでフィジカル的なコンディションは、時間をかけてやり続けていれば戻るものだろう。ただ大島僚太は、そことは別の領域を磨いて勝負してきたフットボーラーである。「思い出す」という言葉は、その感覚に込められているように聞こえた。
なので「思い出すという作業」について少し聞いてみた。
「自分の中である程度の記憶があるので。それをスムーズに出せれば、サッカーに対応できると思います」と言いながら、こう説明してくれた。
「やりながら、『ああ、これを忘れているな』とか。今は練習も映像で見れるので、それを見返すことで(思い出せる)。それは自分の中の話ですが。ただ実際には相手がいるのでいろんなチョイスや選択肢を整理することで臨めればと思っています」
大島僚太には大島僚太にしか見えない世界がある。
よくピッチ全体を上から見てプレーしている視点は「俯瞰的視野」と表現される。俯瞰的視野でプレーしている選手は、相手のいる位置、最終ラインがどこにポジションを取る癖があるかなど、そういう情報を首を振りながら観察し、状況を目に焼き付けているわけだ。
いつ、どこに、誰がいるのか。
おそらく大島のようなタイプがプレーする上では、試合中での選手の配置の把握も含めて、頭の整理を大事にしているのだろう。あまりにレベルが高い話なので、こちらの想像になってしまうのだが、試合勘がなくなると、普段は無意識という習慣でやっている、周囲の配置を把握する感覚がぼやけてしまう・・・・そういうものなのかもしれない。
なにせ試合中のピッチというのは、ときに迷路のようなものだ。だが大島僚太はそんな迷路を地図やコンパス無しで、あっさりと抜け出せてしまう技術を持っているプレーヤーだ。だから、みんなが魅了されるわけだけど、それゆえに大島僚太にとっては、技術やフィジカル的な部分よりも、その感覚などを思い出すことを大事にしているように感じられたのである。
そして約1年ぶりに出場した試合翌日、大島僚太がオンライン取材に応じた。「思い出す」という作業を練習で意識してきた中で、復帰した実戦で確かめられた感覚はあったのか。そこを訊いてみた。
※試合当日のステージ企画の一つに「元“悪(ワル)童”森勇介、U等々力凱旋!!井川祐輔氏との「Wユースケ」スペシャルトークショー!!」がありました。ステージMCを担当させてもらったので、追記としてそのトーク内容を文字起こししておきますね。約20分間でしたが、笑いありの楽しいトークショーでした。当日来れなかった方にも、内容や雰囲気が伝わればと思います(約5000文字あります)。
→■(※追記:6月28日)「負けた者は静かにしておけ、ということですね」(森勇介)、「試合中にガムを噛むのはやめようと思いました」(井川祐輔)。「Wユースケ」スペシャルトークショーを振り返るぞ。
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