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「つなぐ日の青と黒」 (リーグ第33節・ヴィッセル神戸戦:2-1)

等々力陸上競技場でのヴィッセル神戸戦は2対1で勝利。

ホーム最終戦を勝ち切り、逆転優勝の望みをつなぐことが出来ました。

(※11月2日に追記しました→■谷口彰悟と山根視来がカタールW杯日本代表メンバーに選出!発表当日ドキュメント

決勝弾となるPKを成功させたのは家長昭博で、そのファウルを獲得したのは小林悠です。

 79分。中央にカットインしてきたマルシーニョからのクサビのパスを受けると、得意の反転からシュートシーンに持ち込もうとした瞬間、後ろからアプローチに来ていた小林友希に左足を引っ掛けられて倒されました。

「ああいうパスをもっと欲しいと思っていた中で、しっかりと入れてくれた。ああいう形ならば、自分の得意な形に持っていける。ターンして打とうとしたけど、相手の足が引っかかった」(小林悠)

 この場面、当初はフリーキックの判定でした。
キッカーである脇坂泰斗はすでに交代していたため、ゴール前でボールをセットしていたキッカーは家長昭博か大島僚太。どちらが蹴るのかと思って待っていたら、なかなか再開されず、ビジョンには「VARチェック中」の表示が。そしてOFRの結果、倒されたのはペナルティエリア内という判定となりPKに変更。等々力が大きく湧きました。

・・・・不思議なことに、等々力でのヴィッセル神戸戦におけるPKには、いくつかの因縁があります。

例えば2018年10月のリーグ第30節(5-3)。

9月の湘南戦、10月の鹿島戦と連続してPKを失敗して自信を失いかけていた小林悠は、自分ではなく家長昭博が蹴った方が良いのではないかと悩んでいました。そこで巡ってきたこのPK場面で、家長に「蹴りますか?」と確認。

 しかし家長から返ってきた言葉は、「フロンターレのエースはお前やろ」。小林は自らキッカーを務めて成功し、自信を取り戻したという有名なエピソードがあります。この勝利で2位に勝ち点4差をつけたこともあり、リーグ連覇のターニングポイントとして語られた場面となりました。

 もう一つは去年の神戸戦。2021年9月のリーグ第28節(3-1)で家長昭博が蹴ったPKです。

 川崎フロンターレに来てからJリーグで蹴っているPKは、それまで全て成功。PK戦ではもっとも重圧のかかる5人目を任されてきた家長でしたが、その直前のACL・蔚山現代戦でのPK戦ではまさかの失敗。

 そうした影響があったかどうかはわかりませんが、この神戸戦でもPKをポストに当ててしまいます。チーム随一のPKキック技術を持つ彼が、ACLから連続でPKを失敗するという、まさかの事態が起きた試合でした。

 ポストに当たって「カン!」という乾いた金属音が鳴ってスローインになった時間、めったに動揺しない家長昭博が明らかに狼狽していました。味方の選手たちにも小さくない動揺があったはずで、もしあのまま試合に負けていれば、勝敗を分けたターニングポイントとして語られていたはずです。それぐらいのインパクトがあるPK失敗でした。

 しかし、川崎フロンターレの選手たちは逞しく、PKを失敗した直後、ショックを引きずることなく、更にギアをあげて神戸守備陣を攻め立てました。今度は大﨑玲央のハンドを誘い、再びPKを獲得。キッカー交代となり、今度はレアンドロ・ダミアンが豪快にど真ん中に決めました。なおPKは失敗したものの、試合終盤に勝利を決定づける3点目を自ら記録するあたりは、さすが家長昭博といったところでした。

 そしてこの試合でのPK。

自身が獲得したものだったこともあり、家長昭博から蹴るかどうかの意思を尋ねられていたことを小林悠が明かします。

「『どうする?』と言われたけど、『蹴って』と言いました。ここはアキくんだなと。緊張感のある場面でもアキくんが決めてくれると思ってました」(小林悠)

 ボールをセットしたキッカーは、百戦錬磨の家長昭博。

対峙する神戸のGKは、この試合がプロデビュー戦となった坪井湧也。事前のスカウティングで、ある程度はコースを予測していたと言い、その駆け引きをこう振り返っています。

「試合前の分析で、家長選手は、基本的にサイドの上に(キックを)決めてくる。どっち(のコース)でも行けるようにして、出来るだけ下には絞らずに。読みは当たっていたし、感触も良かったのですが・・・」(坪井湧也)

 実際、坪井湧也が飛んだコースは当たっていました。しかし、ボールはその手を弾き飛ばして、しっかりとゴールネットを揺らすことに成功。

決めた家長はその場でピッチに手を強く打ち付けて、感情を爆発させました。思えば、札幌戦で決めたPKでも、彼は力強くガッツポーズを繰り出しています。

 ここ最近の家長昭博は、PKを決めると感情を出すことが増えているんですね。なぜだろうと思うと同時に、そこにはいくつかの理由があるとも感じました。

■「プレッシャーしかなかった」。かつて「PKで緊張はないです。外しても良いという覚悟はいつも持っているので、緊張はないですね」と口にしていた家長昭博が感じている重圧と、その背景に思うこと。

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