日本の単独親権とは「家制度」。世界で類例なき親子断絶制度
親権制度について連載していますが、第2回で「単独親権制度」の俗悪さについて解説しましたが、この制度の本質とは一体何なのでしょうか?
ズバリ! 「イエ制度」です。明治民法からの家父長制の系譜が続いています。ざっくり言えば、男性の独占であった親権が、女性有利の男女争奪戦に変わっただけです。戦前の家父長制では、男性独裁で女性は「無能力者」と呼ばれていましたが、戦後になって形式的には男女平等に変わったわけです。
『結婚』によって、『イエ』はできます。現代でも結婚によって、新たな『戸籍』が作られるから、イエができるという家制度は続いているわけです。結婚しないで子どもが生まれると、かつては「私生児」と呼ばれ、現代でも「非嫡出子」「婚外子」と行政用語にもなっていて、差別的な呼称になっているわけです。
未婚で妊娠すると、「できちゃった結婚」「授かり婚」と言って結婚するのは、子どもが差別的待遇を受ける事態を避けたいからです。一方、結婚しないと共同親権になれませんから、たいていは母親が子育てに全責任を負って、父親は無責任になりがちです。父親は、さながら子どもがいないかのように振舞います。
さて、戦前の家父長制では、結婚して生まれた子どもは「嫡出子」として、正式に「イエ」のメンバーであり、イエの「後継者」として認められます。ただし、男性親権は結婚中も、離婚があっても同じです。女性に親権はありません。
離婚するとどうなるかと言うと、母親はイエから追い出されるので、子どもとは断絶になります。母親もイエが違うから、もはや関係ないということです。実家に「出戻って」再婚して、新たな出産を目指すことになります。戦前の「産めよ増やせよ・富国強兵」という時代背景を物語っています。
父親にとっては、母親不在になるので、代わりの女性を見つけるべく、こちらも再婚を目指します。そして、再婚すると、その女性が子どもの「新たな母親」になります。母親交換制度です。
そして、気に入らない母親を交換したがることが多いのは、夫よりもむしろ祖母でした。嫁姑問題です。現代でも、親権を取れなくて、子どもと断絶になってしまった母親が、祖母を恨むことは、とても多いのです。「あのマザコン夫よりも、義母が諸悪の根源」と怒っている別居母は結構います。
新たな母親が来るまでは、1人欠員で子育てをしなければなりませんから、祖父や祖母も巻き込んで、さらには兄弟姉妹まで呼んでの、イエの総力戦で子どもを育てます。
現代の「ひとり親家庭」で単独親権者が実家に戻らないと、かなり無理があるのは、イエ制度なのに、祖父母を巻き込んでの総力戦の子育てができないからです。単独親権は核家族に向きません。
なお、新たな母親との間に子どもが生まれると、先妻の子どもは苦労します。両親の実子である、新たな子どもは寵愛を受け、先妻の子どもは立場をなくしがちです。後妻は、実子と連れ子を比較すれば、どうしても本能的に実子ほど連れ子を愛せないからです。連れ子と再婚相手の確執は、児童虐待の原因にもなっています。
そして、子どもと断絶になってしまった母親(先妻)は、子どもの喪失を嘆き悲しんで亡くなることもありました。女流詩人の金子みすゞは親子断絶に苦しみ自殺しました。
現在では、女性親権9割、男性親権1割ですから、断絶になるのは男性が多く、その結果が自殺率に表れています。
一方、共同親権のアメリカ・ドイツ・スウェーデン・イタリアでは、離婚しても自殺率はあがりません。(黄色の棒グラフを参照)
共同親権だと、結婚していてもいなくても、実父母は親子のままです。再婚相手との親交換も起きず、連れ子問題もありません。離婚は、ただ男女関係が清算されただけであり、仲が悪くてもイエで耐え続ける必要もありません。離婚は新たな恋愛を楽しむチャンスでもあります。男女関係の結婚と、親子関係の親権は別の話であり、混同してはいけません。
なお、男女関係の結婚と親子関係の親権が別ならば、同性婚は当然にして認めるべきという話になります。日本は単独親権制度で、結婚には親子関係も含まれるので、出産がない同性婚とは別制度にならざるを得ないのです。だから、親子関係がなければ、結婚を男女だけのものとする理由もなくなります。
また、共同親権の国では、不倫も日本ほど問題にはなりません(とはいえ、不倫は不愉快だし、慰謝料問題であるのは変わりませんが)。新たな恋愛に前向きで、親子関係も正常なので、欧米は再婚が多く、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)が多いのです。
共同親権になると、イエ制度は存続できません。子どもは、パパの家とママの家の両方に行くわけですから、家が2つに分裂してしまうからです。そうすると、大事なのはイエではなく、個人になります。
だから、共同親権の欧米では「ファーストネーム」で呼びます。「山田太郎」なら、単独親権制度の日本ではイエを表す「山田」という氏で呼びますが、共同親権の国では、親の氏と子の氏は一致しない場合も多いし、「太郎」という名で呼びます。だから、選択的夫婦別姓は、共同親権になれば誰も反対しません。
日本で世襲が多いのも、家制度だからです。政界では「林家」「麻生家」「小泉家」など世襲が非常に多くなっています。
共同親権の国では世襲は10%未満です。単独親権でイエ制度の日本では30%を超えます。なぜ日本はこんなに世襲が多いのか?は、精神論で語られることが多かったのですが、「家制度だから」というポイントが抜けていました。
イエ制度とは、『法律婚主義』であるので、結婚以外で子どもを産みづらくなります。イエ制度の要素は単独親権でも違いがありますが、単独親権は法律婚主義なので婚外子は抑制されます。
婚外子割合が最下位のあたりにいるトルコと日本は単独親権。韓国は共同親権を導入したとはいえ、原則単独親権の国です。婚外子の割合を見ると、共同親権がどのくらい進んでいるのか、男女平等がどのくらい進んでいるのかも、予測ができます。
また、イエ制度は、家庭内で「男は仕事・女は家庭」の性別役割分担になります。単独親権で男女平等が進んでいる国はなく、男女平等ランキングでは、日本(116位)・トルコ(124位)・インド(135位)・パキスタン(145位)などは下位に低迷しています。単独親権の北朝鮮はランク外です。
女性議員比率も日本は戦後から全然伸びずに10%未満です。イエ制度のままだからです。共同親権を導入した他の国は大幅に改善しています。韓国は伸びが中途半端ですが、共同親権の導入も中途半端だからです。それでも、日本よりは大きな進歩です。
イエ制度だと、配偶者控除・三号年金など女性はあまり働かないように政策でも誘導されていますから、専業主婦願望が多くなります。日本は30%近いですが、共同親権の欧米だとゼロに近い数字です。
もちろん、単独親権の国は発展途上国ばかりです。日本も、経済の転落が止まらず、そろそろ先進国から脱落します。
日本(27位)、トルコ(77位)、インド(147位)、パキスタン(160位)、北朝鮮(ランク外)という有様です。
もういい加減に、日本はイエ制度型の単独親権を廃止して、速やかに共同親権に向かうべきです。
作家の橘玲氏の私と同様の論考を書いています。
『近代的な市民社会を、「個人」ではなく「イエ」単位で管理することがおかしい』というのは、まったくその通りです。個人を尊重するのが、自由と民主主義の先進国です。