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桑の実

和風スナックだというその店の扉をそろそろと開けると、妙齢のママが不思議そうな顔をしてこちらを見た。

「あら、ごめんなさいね、若い人がくるのは珍しいから」

いえいえそんな若いわけではないですが、と思いつつ、カウンターに着いて瓶ビールをもらう。

クラシックラガーとは珍しい



ワタシで若い部類に入るのなら、この店の客層の平均年齢は多分後期高齢者なんだろうなあ。


ここはスナックなんですね?と一応聞くと、
「そうねえ。そうなるのかしら」と。

スナックとバーの違い、ラウンジ、パブ、キャバクラ、ガールズバー。
色々あって難しい。

実は風営法上に明確な線引きがあるわけではなくて、オーナーがスナックと名乗って営業すればそれはスナックだし、バーと名乗って営業すればその店はバーなのだそうだ。

ママが和風スナックと言ってるんだから、もうそれは和風スナックなのだ。誰が何を言おうとも。



「こっちの人じゃないわよね」
はい。

「出張?」
いえ、転勤で。

「あら、そうなの。私も一杯頂いてもいいかしら。おにいさん、公務員?」
いえ、違いますけど。どうぞ。


公務員ねえ。

某役所の人間が集まる飲み会みたいなものに、うっかり参加してしまったことがある。

部外者は余計なことを喋るとこういう地方都市では命取りだぞ、命取りだぞ、と自分に言い聞かせながら呑むというなかなかスリルあふれる貴重な体験をした。


元その役所の職員で、今はあのイベントの元締めというか、闇の部分のフィクサーであり、どうやら相当な影の実力者であるらしく、一見したところ何処の輩かなと思えるような、毎年毎年不穏な噂の絶えないあの人物の話題になり、

相当怖い人なんでしょう?

と、テーブルの向かい側に座っていたうら若き地方公務員の女性に聞いてみると

「とんでもない!
あの方ほどあのおどりのことを、そしてこの市、ひいてはこの県のこと、文化の継承を真剣に考えて、大切に思ってる方はいません!」

と目を輝かせてぼうっと上気した表情でうっとり話し始めたので、ははぁん、これはもう宗教だな、と思った。

夜のバス

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