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くさ笛

人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり

甲府市には駅前にというか架線が南北に両断したような場所に甲府城跡(舞鶴城公園)という立派な公園があるのですが、ほとんど人の姿は見えず。
信玄公びいきの甲府市民はこの秀吉築城の城跡をあまり好まず、みな武田神社の方へ集まるのでなかなかこの公園にはいらっしゃらないのです、との地元ボランティアガイドのご老人。
なるほどなるほど。

その甲府の夜は、オリンピック通りへ。

前の東京五輪、1964年の開催にちなんで名付けられた路地裏の飲み屋街。
人馴れしたハチワレが闊歩する通りを奥へ奥へと進み、目指すは元気な女将さんが有名な名店、くさ笛へ。

その入り口をニ、三度逡巡しつつ行ったり来たりしたのち、ドキドキしなが意を決して入ってみます。
初めての店ののれんをくぐる瞬間は、いつも恍惚と不安のふたつ、我にあり。などとひとりごちて。

お噂の通り、ちゃきちゃきとした溌剌な女将さんで、矢継ぎ早に
「なに飲む?」
「どこから来たの?」
「これ食べたことある?」
と、息をつく暇もない。

カウンター正面に貼られた紙に、東洋子さんの手書きで「山菜の天プラ」とあるのでまずはそれを頂くことに。


タラの葉、ハンゴウソウ、ヨモギ、クワ、フキのとう、イケマ、ウコギ


すべて東洋子さんが自ら山に入って採ってきたものだという。


いやあ、いい雰囲気だ。素敵なお店だなぁ。

カウンターで隣り合った人懐っこい若いご常連は、マクベスの

The labor we delight in cures pain(楽しんでやる苦労は、苦痛を癒す)

という一節が印刷された名刺を持った意識高きスタイリストのカップル。かっこいいなぁ。眩しいね。
良い店は良い客によって成り立っているという法則だね。


帰り際、東洋子さんが、文字通り宝物のように大切そうに出してくれた太田和彦氏の「江戸杯」を見せてもらい、とても楽しい楽しい甲府の夜でした。

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